揺り揺られ
大型家電量販店が好きだ。
知らない製品も楽しいし、知っている製品も面白い。
大型家電量販店が好きだ。
時間なんていくらでも潰せる。一人でも、それほど一人を感じない。
その日も僕は用もなく広い店内をブラブラしていた。扇風機にあーってやってみたり、携帯電話の新機種を意味もなくパカパカしたり。冷蔵庫にはさまれたり(その痛みが三日三晩とれなかったり)。悪くない。どのフロアにも興味がある。なんかな。楽しさ、なんてものは結構容易く見つけられるのだと思う。継続させるのがひどく難しいだけで。
新型のパソコンはそれだけで僕を引き付けるし、使い方もわからない変てこなそれはパッケージだけで妄想に浸れる。
そしてなんといってもマッサージチェア。これに座ってダラダラする時間は何事にも代えがたい。ここで飲み物でも飲みながら本でも読めたら最高なのに。まぁしかし、そこまではしない。できない。でもそれでも十分なのだ。それは妥協ではなく、納得。家に一台欲しいけど、置く場所もなければ買うお金もない。近くて遠いオアシスがここにある。
薄く開けられた目が捕らえるのは、家族連れが多いけれど静かで落ち着いた店内。やっぱり家電量販店はいいな。
再び歩き出し、今度は顔のマッサージ器を試す。振動で顔がシュッとするらしい。ヴィーという音と共に、顔が刺激される。近くに鏡があったので、割と本気でカッコつけてみた。本当に効果はあったのだろうか。わからない。でも不思議と、今はちょっと背伸びをしてもいい気がした。
相変わらず決め顔のまま、とあるフロアを散策していたときのことだ。ん? あれは、何? 僕の目がそれを捕らえた。存在は知っている。が、経験したことはない。恐らく今を逃せば、これ以上近づくこともない。
ジョーバ。
フィットネスマシンだ。これに乗ればウエストが細くなったり、運動不足が解消されるという。そのサンプル台が置いてある。
へぇ。こうなってんだ。
僕は何の気なしにジョーバに跨る。あくまでもクールに。視界に入る子供を見て「落ち着きがない。ふふん、子供だね」などと思ったりして。僕は大人になったのだ。
色々と動くスピードを設定できるようだが、とりあえず最強にしてみた。
そしてジョーバが動き出す。最強で。最強で。
グワーングワングワングングングングングングン。
お。
え?
おい、ちょっ、なんだこれ。いやいや。え。はえっ。どう考えてもはえーだろ! おい、こんなの聞いてねーぞ。おかしいだろ、この動き。え、ちょ、マジで待ってって。手とれる! 手とれる!
「あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!」
しかも、何故か揺れにあわせて変な声が出る。
録音されてリピートされたら死にたくなるような、絶対人には聞かれたくない恥ずかしい声。必死にこらえようとしても、こぼれてしまう生き恥。
ちょ、もう無理!止めて!一回止めて!
必死に停止ボタンを押そうとするも、激しく揺れているため捕らえきれない。
いや、ちょ、待てって!どうやったら止まんだこれ!
「あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!」
お願い!お願い!助けて!もう無理!ヘルプミー!
3分ほど苦戦したあと、何とか指の端を停止ボタンに当て、ジョーバが動きを止めた。
ハァハァ。
今この店内でここまで息を切らしているのは、恐らく僕一人だろう。しかしようやく落ち着き、ちょっと冷静になった頃が最も耐え難い。あぁ、やってしまった。自分のご乱心が他人に伝わらないで済んだと思えるほど、さすがにそこまでは抜けちゃいない。どうしよう、なんて恥ずかしいんだ。帰りたい。消えたい。
近くにいた子供と目が合った。その瞬間だ。親がえらい剣幕で子供に示したのだ。
「コラ!あんまり見るんじゃありません!」
え? その台詞って現実に存在するの? 漫画とかテレビの中の台詞じゃないの!?
俺、見ちゃいけないの?
家に帰って静かに布団に入った。ジョーバのおかげで久しぶりに使った体が痛い。しかし、それを癒してくれるマッサージチェアはもうない。あのマッサージチェアにはもう座れない。
もう外に出たくない。
ジョーバが痩せるというのは、確かに本当なのかもしれない。
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