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2007年6月21日 (木)

ハンドベース

Photo_9  小学校の6年生の頃だったと思う。僕達はハンドベースをやっていた。ルールは野球とほぼ同じ、ただバットの代わりに握りこぶしで玉を打つ。玉は柔らかいバレーボールを使っていた。生徒数の関係上、野球と同じように9対9の合わせて18人とまではいかないが、ボール自体がそれほど飛ばないので、少ない人数でも問題なくできた。

これがクラスで大流行した。休み時間になると、挙って校庭や体育館に出ていざプレイボール。ほとんどのクラスの男子が参加していたと思う。来る日も来る日もこの遊びに明け暮れた。少しでも遠くに飛ばせるように拳を鍛えたりしてみる。見方によっては、なんてストイックな小学生なんだ。ただ、握り拳とは言っても実際に打つ面は手のひら側。いくら硬い拳を作れたって何の意味もない。バカである。ここでもし、本当の野球のようにバットでも振っていれば、未来の甲子園スターが生まれていたかもしれない。ただ、小学生なんて軒並み非生産的だ。特に男子に至ってはひどい。とりあえず服とか汚れればなんだか満足した気になる。服の汚れと下品なギャグさえあればぐっすり眠れる生き物なのだ。うちの小学校も例外ではなく、後々なんの役にも立たないようなトレーニングにみんな明け暮れた。実際僕はこの年になっても小学校のとき以来、前から来るボールを手で打つ機会など一度も遭遇したことがない。

ハンドベースを流行らせたのは僕たち仲良しグループだった。なんでそんな流れになったのかかわからないが、うちの小学校で最初にハンドベースを始めたのは間違いなく僕達だ。そこから、あいつら面白そうなことやってんな、ということで他の仲間達も加わってきた。そうして気がついたら大集団だ。自分達がきっかけという点が、さらに僕らを熱くさせ、呪われたように毎日毎日やっていた。本当に呪われていたのかもしれない。

僕達が流行らせたということもあり、オリジナルルールもいくつか作った。メジャーなところでは投げ当て(ランナーに向かってボールを投げ、当たったらアウトにできる)なんかがある。特殊なものとしては、職員室の窓を割ったら10点、校長室の窓を割ったら20点などの破壊的ルールがあった。しかしこの窓シリーズは、一気に大量得点が望めるのでみんな狙ったが、小学生の力とバレーボールの硬さじゃ叶わず結局誰も達成できなかった。そんな中でも特にいかれてたのは、打つ瞬間に面白い事を言ったら1点という特殊ルールだ。もはやただの大喜利である。親友のT君が言った「ごめんねお父さんお母さん」が今でも忘れられない。みんなに全然うけなかったのでポイントは入らなかったが、僕だけ笑い転げていた。小学生らしいと言えば小学生らしい。

ある日を境に、そんなハンドベース人口が減っていく。今度はキックベースが頭角を現してきたのだ。同じくルールは野球と似ていて、ピッチャーが玉を転がしてバッターはそれを思いっきり蹴る。これなら手が痛くならないし、なにより玉が遠くに飛ぶのが面白い。あっという間に普及していった。理にかなっているのはわかるが、ハンドベースを流行らせた僕らとしては納得がいかない。なんとかもう一度みんなをこっちに振り向かせようと必死になった。

僕達は意地になってハンドベースを続けた。玉が遠くへ飛べばいいんだろ、打席でそれまでより強く腕を振った。それでもみんなは帰ってこない。それもそのはず、そんなことをしても飛距離でキックには勝てないのは明白である。かと言って意地がある。小学生特有の無茶がある。遠くへ飛ばせ。もっと強く振れ。

そうして一人が骨折した。例のT君だった。ハンドベースで骨折した。飛距離とのギリギリの戦いだったのだ。なんとかキックベースに飛距離で追いつこうとした結果がこれだ。こうなった以上はもう無理である。僕達は負けたのだ。完敗である。僕達のハンドベースは、彼らのキックベースにはっきりと負けたのだ。

不思議と悲壮感はなかった。それどころか、その骨折の知らせを聞いたときは大爆笑だった。お前バカだな、とみんなで笑った。子供は残酷である。ただこうして成人を迎えた今でも重々面白い。思い出しただけで噴出しそうになる。だって、ハンドベースで骨折って。T君も笑っていたのが幸いである。笑うしかなかったのかも知れない。

それから僕らもキックベースのグループに加わった。だってそっちならT君も打席に立てるし。玉が遠くに飛ぶのがすごく気持ちいい。みんなが夢中になるのが、そりゃ前からだったけど、わかった気がした。でも僕達グループはみんな、キックベースのほうが面白いとは最後まで言わなかった。

今でもT君とは仲がいい。

T君と会うとたまにその話になる。ハンドベースを守ろうと意地になったこと。キックベースに負けたこと。骨折したこと。そして大人になった僕らは、昔を振り返ってこう言うのだ。

「ハンドベースもキックベースも、どっちも別にそんな面白くなかったよな」 って。

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