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2007年11月

2007年11月29日 (木)

ケータイ小説~あん空~10

Annsora_2 あん空最終話。

完結です。長い間ありがとうございました。

初めての方は 第一話 からお読みください。第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話


あん空

※この物語は全てフィクションです


10.

「なんか知らんけど、妊娠してます」

・・・!? 医者のその一言に私は驚愕した。最近いくらなんでも調子がおかしいと病院に行ってみたところ、待っていたのはそんな予想だにしない結果だった。妊娠?私が?

彼の・・・子供・・・?

「おめでとうございます。子供一人の命につきダーツ一本と交換できて、いまならこんな素敵な商品(パジェロ等)が当たりますけど、どうしますか?」

「生みます!絶対生みます!私、ドシドシ生みます!」

即決した。驚きはあったけど、迷いなどなかった。だって、心から嬉しかった。彼と私のたった一つの結晶。そんなもの大事にするに決まっている。すごい!妊娠だって!彼の子だって!・・・本当はこの子と3人で家庭を築きたかったけれど、でも大丈夫。この子がいてくれれば、私はきっと強くなれる。この子は私の支え。これからはこの子が私の存在意義そのものだ。

実は、私と彼が性交渉に及んだのはたったの1度だけだった。それはイタリアでの彼が死ぬ前夜の事。彼は病弱だったで、その行為自体私は諦めていたのだけれど、その日は彼のほうから私を抱いた。彼は自分に死が近づいていることをわかっていたのかも知れない。そして、一人取り残される私の道しるべになるようにと、こんな暖かいプレゼントを残してくれたのかもしれない。だとすれば彼の狙い通りの一発命中。その日のために彼は、きっと日々の自慰を慎んだに違いない。ポイントを貯めれば必ず当たるって、お前はどこぞのパン祭りだ。

勝手に子供作っておいて死ぬなんて無責任のようにも思えるが、私にとってそれはすごく優しい事実だった。救われた。また、歩き出せそうだ。だって彼との赤ちゃんに、私はベビー服を買いに行かなければいけない。うんとかわいいのにしよう。いっぱい愛情を注ごう。

ねぇ、もっこり聞こえる?私、赤ちゃんができたんだよ?私とあなたの子だよ?男の子かな?女の子かな?名前はどうしようかな?顔は、どっちに似てるかな?

ねぇ、もっこり聞こえる?この子のこと、きっと幸せにするよ。ちゃんと見ててね?あなたの子だから、きっといい子に育つかな?私の子だから、すぐめそめそするのかな?

ねぇ、もっこり聞こえる?本当にありがとう。この子にも、ちゃんとありがとうって伝えるよ。相変わらずそんなことしかできなくてごめんね。でも、ありがとう。

ねぇ、もっこり聞こえる?大好きだよ。愛してるよ。

私は一人でも必ずこの子を育てあげる。私は私の、新しい居場所を見つけた。彼以外に私の納まりどころになる人などいないと思っていたけど、こんな答えもあったんだ。私は一人じゃない。また優しくて、暖かい陽だまりを手に入れた。

まだ物語は終わっていなかった。こんなに素敵な続きがあった。そうだ、この物語に名前をつけよう。そしていつかこの子が大きくなって、彼と出会う前の私のように道に迷った時に、彼を失ったときの私のように孤独を感じたときに、、聞かせてあげよう。あなたにも、きっとピッタリの人がいる。その人じゃなきゃいけない人がいる。彼に出会った私のように。あなたに出会った、私のように。

‐15年後。

「ママ、あたしフラれちゃったんだ」

「あらそうなの。それはそれは大変だったわね」

「あーあ、きっと私のこと必要としてくれる人なんていないんだ。私はずーっと一人ぼっちなんだ・・・」

「そんなことないわよ。いつかちゃんとあなたにピッタリの人があらわれるわ」

「本当に?」

「本当に」

「んー、今のあたしにはなんか信じられないなぁ」

「・・・じゃあちょっと、面白い話してあげようか?」

「え?何なに?聞かせて」

「すごく素敵な恋をした男女2人のお話なの。タイトルは『アゾーラ』。イタリア語でボタンホールって意味よ」

「え?あん空?・・・なんか変な名前ね」

娘は笑った。

その顔を見て、私は思う。

こいつ、ブタみたい顔してんな。

(おしまい)

第9話

終わった。ああ終わったぁぁぁぁぁあああああああ。なんかね、ちょっと寂しい気もします、が。いや最後バッドエンドも考えたんですが、一応ハッピーエンドにしてみました。ケータイ小説なんで。皆様からたくさんのコメントをいただいたのに返事できなくてすいません。次からはまたいつも通りの感じに戻します。あーでも創作長編楽しかったな。またいつかやりたいですね。飽きずに最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。あ、書籍化、映画化の話待ってます。ずっとずっと待ってます。

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2007年11月28日 (水)

ケータイ小説~あん空~9

Annsora_2 あん空第9話。

今日と明日で終わりです。今しばらくお付き合いください。

初めての方は 第一話 からお読みください。第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話


あん空

※この物語は全てフィクションです


9.

「・・・もっこり?・・・もっこり!?」

「ねぇ嘘でしょ?ねぇ!?」

「嫌だよ、私をおいていかないで!」

「もっこりー!」

部屋には、私の声しか響かない。揺すっても、叫んでも彼からの返事はない。それでも、私にはどうしても諦められなかった。

「起きてよ。ねぇ、一緒に帰ろう?ねぇ、もっこり・・・」

「またいつものいじわるなんでしょう?ねぇ、そうなんだよね・・・?」

「死なないで・・・もっこり・・・死なないでよ」

急に彼の目が開いた。

「ばぁ!」

心臓が止まるかと思った。私まで死ぬかと思った。

「え・・・?」

「なんちゃってー!」

「・・・いや・・・」

「あはは、ごめんごめん。ちょっと驚かそうと思って」

「・・・もう何なのよ!ビックリしたじゃない!バカ!間抜け!人間のクズ!ドジ!ニート!少子化問題!大殺界!嫁姑戦争!ニート!」

私は枕を投げ、灰皿を投げ、植木鉢を投げ、部屋のドアを投げ彼を責めた。怒っている。でも、本当はそりゃ嬉しかった。ほっとした。まだ大丈夫だ。「んもう」。私は涙を流しながら笑う。でも、これは矛盾じゃない。タバコを取って欲しいという彼に、私は言われた通りにする。

え?

彼がタバコに火をつけると、急に部屋が静かになった気がした。急に部屋の空気が重くなった気がした。

「くるみ・・・今までありがとうな・・・」

「・・・?何よ、急に」

「どうしてもお礼が言いたかったんだ。それに、最後に君の笑顔が見れてよかった・・・」

そう言って彼は、つけたばかりのタバコを灰皿に軽く押し付け、大きく息を吐いた。目の焦点が合っていない。彼の動きがスローモーションのように見える。何かすごく嫌な予感がする。ダメ。彼が一つの行動を起こすたびに、彼の命が一つずつ、まるでカウントダウンのように減っていくように思えた。ダメ。この流れを止めたい。でもどうやってもそれはできない。ダメ、どうすればいいの?あぁ。

彼は私に言い残したお礼を言うために、最後に私を笑わせるために、きっと無理をして一度だけ目を開けてくれた。そんな優しさがすごく嬉しく、すごく切なかった。そんな彼のその瞬間を前に、私はただただ、側にいるだけだ。今の私に何か、できることはある・・・?

さっきよりたくさんの涙があふれ出てきた。本当は言いたくない。でも。その時なんだな。

「もっこり。あなたに会えて、私、本当に幸せだったよ。ありがとう」

ひどく悲しい完全な別れの言葉。でもきっと、言わないで終わるほうがずっと悲しい。本当は言いたくはないけれど、今言わないと一生後悔することはわかっていたから。

彼は小さく微笑み、再び、ゆっくりと目を閉じた。これが本当に最後なんだと、私にはわかった。それは最愛であるからこそ認めたくないのに、最愛であるからこそわかる。だってずっと彼のことばっかり考えて、ずっと彼のことばっかり見てたんだよ?わかっちゃうよ。愛は、いつだって理不尽だ。彼は、死んだのだ。

「・・・もっこり・・・」

「本当にありがとう・・・」

「私、本当に幸せだったよ?大好きだったよ?」

「あなたに会えて本当によかった・・・」

私は彼の手を強く握った。そこには返す力も、受け止める温度もなかった。あぁ、本当に終わっちゃったんだな。私はもう片方の手でそっと彼の頬を撫でた。痩せて真っ白で冷たい顔。大好きな顔。私はあなたを笑わせてあげれた?あなたは私といて幸せだった?閉じられた目。深く優しかった目。そしてその目が、突然開いた。

「ばぁ!」

「えぇ!?なんだお前!?こいつまだ生きてやがったよ!気持ち悪ぃな!おま、ちょ、しつけーんだよ!今まとめに入ってたんだからそこ空気よめ!」

結局こんなやりとりを124回繰り返し、彼は本当に死んだ。ずっと憧れていたイタリアの地で。こうして私達の物語は日本で始まり、イタリアで終わったのだ。短く悲しい、でも暖かかった私の宝物。私と彼の物語。

翌朝、私は彼の遺体にたくさんの風船をつけ、それにぶら下がって日本に帰った。

葬儀や通夜は、幼い頃に身寄りを亡くし、友達もいなかった彼とあって、ずい分とこじんまりとしたものだった。というより、参加者は私1人だった。香典もなければ、挨拶を聞く人もない。お焼香も8秒で終わった。坊主にしても、どうせ聞いてるのが私1人ならと、チーズバーガーを食べながら適当にお経を読んだ。それだけならまだしも、最終的には「これ読んどいて」とお経の本を私に渡し、ニンテンドーDSの電源を入れドラクエのレベル上げを始める始末だった。どうやらボスが今一倒せないらしい。このなまくら、そんなこと知るか。結局彼はこんな風に、最後の最後まで報われなかったのだ。

私は1人になった。カラッポだった。暗い部屋で電気もつけず、毎晩泣いた。結局イタリアでも彼と写真を撮ることはなく、彼と2人で残した目に見えるものは何もなかった。私にはすがるものが何もなかった。頼るものが何もなかった。彼と過ごした大切な時間が、時が経てばいつか風化してしまいそうで恐かった。

彼が死ぬ事はわかっていた。いや、わかっていたというより、知っていただけだったのだろう。彼の占める割合が私の中で大きすぎるのはわかっていたけれど、それがなくなった時の虚空がこんなにも辛いとは思っていなかった。覚悟とかよくもまぁあんなに簡単に口に出来たものだ。彼と会ったことを、彼を好きになったことを、もちろん後悔はしていない。ただ、過去に戻れるなら、あの時の私に「思ってるよりずっと辛いから気をつけて」と伝えたい。

私は、ボタンホールを失った。大切な大切な、唯一のボタンホールを失った。私の余ったボタンはどうすればいいの?私は、1人だ。

日々は流れても私の傷は癒えなかった。最近ではいよいよ体の調子もおかしい。大好物だったものを食べても美味しいと感じないし、吐き気もひどい。

私は一体どうなるんだろう。

-(続く)

第8話・ 第10話

次回最終話。

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2007年11月27日 (火)

ケータイ小説~あん空~8

Annsora_2 あん空第8話イタリア編。イタリアに何があるのかさっぱりわからないんで、描写がひどいことになってます。

あん空ももうクライマックスですね。

初めての方は 第一話 からお読みください。第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話


あん空

※この物語は全てフィクションです


8.

飛行機内ではしゃぐくるみに俺は注意する。それに対するくるみの言い訳は、まるで子供のそれだった。

「だって飛行機初めてなんだからしょうがないじゃん!見て見て!雲だよ!」

俺はそんなくるみがかわいらしく、少しいじわるしてしまう。

「なんだ、くるみは雲を見るのも初めてなのか?」

くるみは少しだけムスっとしたように言う。

「そうじゃないけどさ!雲って面白いじゃん。ほら、あれなんて金剛力士像みたいだよ!」

くるみは人型の雲を指差してそう言った。

「あ、あれはうちのお父さんみたい!」

くるみは何もないところを指差してそう言った。どうやら彼女には、父に対する尊敬の念がまったくないようだ。

はしゃぐだけはしゃいで、すぐに寝てしまったくるみ。本当に子供なのではないかと少し心配にもなるが、くるみはDのことを「デー」と発音する大人びたところもあるし、きっと大丈夫だろう。眠るくるみが風邪をひかないようにと彼女の体に毛布をかけ、眠るくるみが楽しい夢を見れるようにと彼女の耳にヘッドホンを装着し、機内放送の落語を最大音量で流した。

飛行機はまもなくイタリアに到着する。ずっと俺の憧れだったイタリアが目の前にある。あと小一時間もしないうちに俺はイタリアの地を踏む。やっとここに来た。俺は体内のざわめきを感じた。くるみとの最初で最後の旅行。どうかいい思い出になってくれ。そして俺はもう一つ願う。イタリアにではなく、自分自身に。頼むから、日本に帰るまでもってくれ。飛行機は着陸体勢に入った。

いざ、イタリア。

「すっごーい!イタリアだよ!」

さっきまで寝ていたくるみは、体力満タン!といった感じで再びはしゃぎだした。でももう止めない。なぜなら俺だって彼女以上にはしゃいでいるからだ。だってイタリア初めてなんだからしょうがないじゃん?

「うひゃひゃひゃひゃ、いいかい?イタリアには国旗の色通り3種類の人間しかいない。不健康で白い人間か、酔っ払って赤い人間か、色々あって緑の人間だ!・・・なんてうっそぴょーん!うひゃひゃ、緑の人間だって!ピッコロ!ピッコロ!」

周りのイタリア人と、くるみの冷たい視線が突き刺さり、俺は幾分か冷静になる。まったく俺は何を言っているんだ。このままじゃいつかイタリア人にフルボッコにされかねない。よく見ると、近くに現地の警察も来ている。危なかった。落ち着け、落ち着け俺。

イタリアで過ごす数日間の間に、俺はくるみを連れていくつかの観光名所と美術館を巡った。特にフィレンツェの美術館はよかった。何度も何度も食い入るように本で見て見慣れたはずの、憧れの巨匠達のルネサンス絵画。それでもその前に立った瞬間、俺はまったく動けなくなってしまった。そのまま彫刻として飾られそうになったほどだ。全身に鳥肌が立ち、芸術の真髄を前に、己の無力さを嫌というほど感じた。俺の絵など彼らに比べたら、足元どころか、地下2階食料品売り場でございます、といった感じだ。横を見るとメガネをかけた日本人が、連れに偉そうに間違った解説をしている。こういう奴クラスに1人は必ずいるよな。

でも、最後にこんな素晴らしい本物が見れてよかった。イタリアに来て本当によかった。

くるみはと言えば、どこに行ってもニコニコと楽しそうで、彼女なりにイタリアを満喫しているようだった。そんな彼女を見ていると、一緒に来て正解だったと思える。中でもピサの斜塔に彼女は大喜びだった。「これこれ!」と言いながら、自分も傾いていた。とってもいい角度だった。

ただ一つ残念だったことは、真実の口が見られなかったことだ。それがあるローマの教会まで行くことは行ったのだが、そこに待っているはずの真実の口はなかった。何でも、とあるババァが手を入れたところ、本当に抜けなくなってしまったらしい。仕方がないからそのまま外して持って帰ってしまったそうだ。そのババァを知るものによれば、「雨が降っても、これさえあれば傘いらずで便利」と大喜びとのこと。手が石のハンマー状のババァ。日本でアニメ化の話も持ち上がっているらしい。

イタリアでの最後の夜。俺たちはとある小さなレストランに入った。俺の勘が、この店は当たりだと訴えたのだ。いかにも俺好みの店構えをしている。入り口をくぐると、2人にしては少し大きめのテーブルに案内された。新しくはないけれど、不思議と落ち着く店内。そう言えば俺たちが出会って最初に行ったのも、確かこんなレストランだったな。つい最近の事のような、それでもずいぶんと懐かしいような気がする。あの日は楽しかったな。あれからもう3ヶ月経つのか。3ヶ月、経っちゃったのか・・・。

「ねぇ、看板に書いてあったあれ、どういう意味?」

くるみが聞いてきた。

「あぁ、そうだな。家庭的、とか、お袋の味、って感じかな」

そう言い終わるとほぼ同時に、店のババァがガスコンロと鍋を持って来て、俺たちのテーブルの余った椅子に座った。え?何を始めるのかと思いきや、なんとその場でパスタを茹で始めたではないか。一体何のつもりなんだ。これではババァが気になってロクに会話もできない。そんな俺の意をまったく無視するかのように、鍋を睨み続けるババァ。

「ほ、ほら、家庭的っていうのを実戦してくれてるんじゃないかな?」

微妙な空気を感じ取ったのか、くるみが小さい声で言う。あぁ、なるほどね。家庭的か。ババァは、ブツブツと呪文のようなものを唱えながら熱心に鍋をかき混ぜている。独り言か?まぁまぁ家庭的を売りにして、客の近くで料理をこしらえるのはわかる。本当はわからないけど、まぁ許そう。独り言も家庭的っちゃ家庭的だ。ただ、一つだけどうしても意味がわからないことがある。なんで・・・なんでこのババァは全裸なんだ・・・?それは家庭的過ぎやしないか。風呂上りかよ。お前んちの風習など知らん。

味は悪くはなかったが、残念なことに会計のときに法外な料金を請求された。そんなわけがない。そんな食べてはいない。内訳を調べて見ると、大半がサービス料ということだった。こんな高額なサービス料?・・・まさか。まさか、ババァのアレか!大暴れしてやろうかとも思ったが、結局それは果たせなかった。

怒りよりも、突然の急な眩暈が俺を襲ったのだ。な、なんだ。倒れこむ俺の視界の片隅がババァを捕らえた。べっ甲のクシで陰毛の毛づくろいをしながら、こっちを見てほくそえんでいる。くそ、ババァ、料理に何か盛りやがったか?

ち、ちきしょう、こんなババァに・・・。

く、くるみは?・・・平気そうだ。じゃあ、なんで俺だけ。これは・・・この眩暈は・・・。

しばらく休むと歩けるほどには回復したが、俺たちは夜の街の散歩をやめにして、予定より早くホテルに戻った。実は今朝から体の様子がおかしいのには気づいていた。やっぱりそうだ。最近血も吐いた。何度も体の悲鳴を聞いた。そろそろ来る頃だとはわかっていた。けど、何故せめて日本に帰るまで耐えてくれないのだ。それぐらいは許してくれてもいいじゃないか。自分の体のことは自分が一番わかるというのはどうやら本当のようだ。俺は、もう危ない。

「大丈夫?大丈夫?」

くるみがずっとベッドに横になる俺の手を握ってくれている。なんだか少し安心する。君がいてくれてよかった。おいおい、そんなに泣くなよ。こうなることはわかってたじゃないか。でも、ごめんな。

意識が朦朧とする中、彼女の手を1度だけ強く握り返し、俺は目を瞑った。

・・・・・。

・・・・・・・・ひどく、眠い。・・・・いや、ちょっと違うな・・・。

・・・・あぁ、これが・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・。

愛してるよ、くるみ・・・・・・・・。

・・・・・・。

・・・・・・。

・・・・・・。

-(続く)

第7話へ・ 第9話へ

・・・・。俺ババァ使い過ぎかな・・・。

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2007年11月26日 (月)

ケータイ小説~あん空~7

Annsora_2 ここのところ更新滞ってしまいごめんなさい。今日からまた毎日更新のつもりでいきます。

さてなにやら映画化された本家のほうは、主題歌を歌っているのがミスチルことミスターチルドレンだそうで。というわけで、うちのほうにもミスチルに出てもらいます。もうわけわかりません。

初めての方は 第一話 からお読みください。第2話 第3話 第4話 第5話 第6話


あん空

※この物語は全てフィクションです


7.

『そうでございますね。エンゼルフィッシュが同じエンゼルフィッシュを追いかけ、そしてつつき傷つける。そういうことは確かにあります。元々気性の荒い魚ですし。そういった場合は水槽をうつす以外にございません。強いものが弱いものを裁く。強いものが弱いものを制する。例え美しい水槽の中だって、例え美しい姿だって、醜い部分はあるんですよ。このように、熱帯魚の世界にもいじめはあります。おーかわいそうにかわいそうに。いじめ、かっこ悪い』-熱帯魚愛好家 ギョ二・ク=ソーセジ  (本文とは一切関係ありません)

-それからの日々は幸せだった。私と彼は、同じ時間を同じ座標で生き、同じ話題に触れ、同じベッドで眠った。3ヶ月ではあるけれど、その分後悔しないようにと、何倍も笑い、真剣に愛し合った。

彼が絵を描いているときは私は後ろからそれを見ていた。私が料理をしているときは彼が後ろからそれを見ていた。話をするときはお互いがお互いを見つめ合った。ケンカをする時間すらもったいないかのように、私達はそれは仲良く暮らした。映画館に行き、感動で涙ぐむ私の隣で、「前の人のせいで全然見えなかった」と言う彼に笑う。何でも彼の前の席に座っていた派手な格好をした人は、獣神サンダー・ライガーというプロレスラーらしい。デートスポットと呼ばれる場所に出向いてみたり、一緒にショッピングにも行った。おそろいのアクセサリーも買った。日々は確かに過ぎ、きっちり違う日は訪れるけど、明日もきっと今日のと同じように幸せなのだろう。

1度彼とカラオケに行ったことがある。嫌がる彼をむりやり私が誘ったのだ。最初は私だけ歌っていたが、それではつまらない。なんか歌ってよ、と少し甘えてみる。そうすることで彼はようやくマイクを手にした。

驚いた。なんと彼は歌もうまいのだ。ガラスのように繊細な声で歌う。これで落ちない女なんてそうそういないだろう。お前はパーフェクト超人かよ。それに比べ私はどうだ。カラスを撃ち落しそうな声だ。彼のあまりのうまさに私は嫉妬し、サビの前に差し掛かると「演奏停止」のボタンを押してしまうほどだった。

彼はスネて歌うのをやめてしまった。私が調子に乗って、彼が歌うたび7曲連続で演奏停止をしたのが気に入らない様子だ。確かに少しやりすぎたかも知れない。私は素直に謝り、また甘え、それを繰り返しなんとか機嫌をとる。何度も彼の曲を消したのは、聞きたくなかったからでは決してない。今度はちゃんと聞く。今度はちゃんと聞きたい。ようやくまた彼が歌うことを決めるまで、少しだけ時間がかかった。

室内に彼の歌声が響く。完璧に使いこなすビブラート。やっぱりうまい。感動的ですらある。何度も聞いた有名なラブソングだが、こんなにも胸を打ったのは初めてだ。曲が盛り上がり、彼がマイクを強く握る。さぁ、サビだ。

コンコン。「焼きうどんでございまぁっす!」。店員が入ってきた。

初めて彼から演奏停止を押した。彼は「ちょっとニューヨークにレコーディングしに行ってくる」などと言い、マイクを自分のカバンに入れようとしている。ちょ、落ち着いて。

結局この後、彼が最後まで歌ったのは、たったの1曲だけだ。それでも彼の歌い終わった顔はなんだか満足そうだった。ミスターチルドレンの『くるみ』。くるみの私に『くるみ』なんて。ちょっとベタ過ぎる気もするけど、そんな不器用さが彼らしく、とても愛らしいく思えた。私が「鎮魂歌」とかそんな名前じゃなくて、本当によかった。

『どこかで掛け違えてきて 気が付けば一つ余ったボタン 同じようにして誰かが 持て余したボタンホールに 出会うことで意味が出来たならいい』

そんな歌詞を、彼が「まるで俺たちみたいだね」なんて思いっきり真面目な顔で言うから、私は笑ってしまった。飲んでいたウーロン茶を吹き出し彼の顔にぶっかけ、床をのた打ち回り、次の朝腹筋が6つに割れていた。

でも、嬉しかった。本当に嬉しかった。そんなことを思ってくれ、言ってくれた彼。私はその言葉を何度も何度も噛みしめた。確実にあった私の余ったボタン。それを受け入れてくれたあなたの持て余したボタンホール。これでピッタリだね。やっぱりあなたじゃなきゃダメだったんだね。くるみという名の私がいて、一部だけでもそれにピッタリの歌詞を持つ『くるみ』という曲があって。それはなんだか運命のようにも思えた。自分の名前を前よりも好きになれそうだ。こんな名前を持つ自分を前よりも好きになれそうだ。ボタンとボタンホール。私とあなた。ボタンホールとボタン。あなたと私。

その日の夜私は家に帰ってから、ライムワイヤーでその曲を落とした。そして彼に内緒で、ケータイの着メロを『くるみ』に変えた。

あと一週間と少しすれば、私と彼は一緒にイタリア行きの飛行機に乗る。彼の念願のイタリア。私にとってみれば彼と一緒に行く旅行がどこだってつまらないはずはない。一緒にイタリアの空気を吸うんだ。一緒に美術館を回るんだ。帰ってきてから「やっぱり家が一番ね」なんて言うんだ。おみやげにイタリア語で「根性」と書かれたキーホルダーを買うんだ。実家から持ってきたパスポートの写真を見ると、ひどくつまらなそうな私がいる。この頃の私に、今の私を見せてあげたい。人はこんなにちゃんと笑えるんだよ。

思えば彼と写真を撮ったことは一度もなかった。イタリアでたくさん撮ろう。ピサの斜塔とか、あとピサの斜塔。それに塔が傾いたピサ的なやつもある。どうせ私はピサの斜塔しか知らないけれど、彼がイタリアに詳しいからかまわない。

私の浮かれた鼻歌を止めたのは、そんなある日のことだった。いつものように洗濯をする私。たかが洗濯でも幸せを感じられる。そんな私の目に飛び込んできたのは、彼の服についていたそれだった。悲しいほどに深い紅の印。

け、血痕・・・!?

初めは結婚を遠まわしに伝えたプロポーズかと思い、何だかドキっとして鏡を見ながら少しばかり前髪を整えてしまったりもしたが、冷静に考えれば当然の如くそんなご陽気なものであるわけがない。

あぁ。

忘れていたわけではないけれど、幸せすぎて曇っていたのかもしれない。もしかしたらこんな日々が終わることを、無意識のうちに信じないようにしていたのかもしれない。世界中でたった1人信じている他人が隠そうとした真実。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。でも。でも。でも。

彼は、死ぬんだ。嘘だ。嘘じゃない。どんなに愛したってどんなに幸せだって、どんなに祈ったってそれは変えられない事実なんだ。いくら涙を流したって、流れてはくれない決定事項なんだ。なのになんで涙が出るんだろう。ダメだ、こんな泣いてる暇があったら少しでも彼に触れていないと。それでも思いとは裏腹に、涙は止まってはくれなかった。そして時間もまた、決して止まってはくれなかった。

これから来る未来に、私は物語の「終わり」を確かに感じた。

-(まだ続く)

第6話へ ・ 第8話へ

段々やりたい放題になってきました。ジャスラック怖いよぅ。

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2007年11月22日 (木)

ケータイ小説~あん空~6

Annsora_2 小ネタばかりに注目が集まって、ほとんど誰にもストーリーに触れてもらえないあん空も6話目です。一応それなりに流れは考えてはいるんですけどね。どんどん変わりそうです。まぁでもたぶんきっとこの先も大どんでん返しとかはないですけど。

初めての方は 第一話 からお読みください。第2話 第3話 第4話 第5話


あん空

※この物語は全てフィクションです


6.

-彼女は宣言通り、昼前に再びこの部屋に戻ってきた。大きくもなく、小さくもないカバンを一つ抱えて。でも昨日とは違う。今日の彼女は笑顔だった。

昨晩俺は、胸の内を全部晒した。汚い部分も格好悪い部分も全て。それでも彼女は逃げないでくれた。向き合ってくれた。こうやってまた会いに来てくれた。それが嬉しかった。

その日、俺と彼女は時間を忘れ色んな話をした。今までほとんど知らなかった互いを少しでも取り返すように、延々言葉を交わした。俺のこと、彼女のこと。周りの環境のこと。偶然2人とも好きだった映画のこと。小学校の時『うちの家族』というテーマで作文を書かされることになり、一日中おじいちゃんを観察していたが、「ひたすら干しぶどうを食べていた」しか書けなかったこと。テレビの調子が悪くなったときに、「こうすればなおる」とおばあちゃんがテレビを強く叩くと、何故かおばあちゃんのほうから煙が出たこと。小さい頃カメはめ波のマネをしていたら本当に出てしまい、公園を荒野に変えてしまったこと。彼女はとくに母親の自慢をしきりにしていて、それには何かと好感が持てた。

そして彼女は俺の話を本当に楽しそうに聞いてくれる。俺の言葉全てに興味を持ってくれる。彼女にならもしかしたら、変な壷とか売りつけられるかもしれない。そんな彼女を前にすると、俺もいつもより気分が乗り、いつもよりはるかに饒舌になる。

「まりもっこりさんって絵描きさんだったんですね」

「あ、うん。そうだね。自分が病気だとわかる前は、いつかイタリアに絵の勉強をしに行こうと思ってたんだ」

「そうだったんですか・・・。あ、それでこの前レストランでイタリア語がしゃべれたんですね!」

「うん。そうなるね。イタリアってすごいんだ。レオナルド・ダヴィンチやミケランジェロ、ラファエロなんかを輩出した国でね(Wikipedia調べ)。絵を始めるきっかけになったほど、僕は彼らの絵が大好きなんだ」

「ごめんなさい、私下水道に住んでる亀の戦士たちを想像しちゃいました」

「はは。だからイタリアは僕にとってずっと憧れだったんだ。あぁ、死ぬ前に一度でいいから、イタリアに行ってみたかったな・・・」

「きっと行けますよ!うん、行きましょう!じゃあ2人で一緒に行きますか!」

その後ネットを使いイタリアの絵画に触れたり、そしてイタリアまでの旅行料金を調べたりした。自分の名前をグーグルで検索するという、誰もが通る過ちもおかした。俺と同姓同名の奴が、なんかどっかの剣道の大会で3位だった。暖かい部屋の中で2人。こんな小さなことがすごく幸せだった。彼女と一緒なら、叶わぬ夢を語ることさえ、俺には有意義に思えた。

夕飯は彼女が「自分で作りたい」というので、お言葉に甘えることにする。うちには大した食材などなかったが、その中から、彼女は何か閃いたようにピックアップしていく。にんじん、じゃがいも、玉ねぎ。そしてカレー粉。「ちょっと大きい鍋ありますか?」 「あ、そこの下に入ってる」。なるほどね。そう来ますか。悪くない悪くない。

俺はキッチンを彼女に任せ、1人キャンバスの前に座った。彼女と一緒にイタリアか。俺は少し集中し、筆を掴んだ。今ならなんだかいい絵が描けそうだ。前ほどの迷いは、もう感じなかった。

「おまたせしましたー」

その声で俺は我に帰る。時計を見るとかなりの時間が経過していた。こんなに没頭したのはいつ以来だろう。心地よい達成感と共に、俺はテーブルへと移動した。

「ごめんなさい、ちょっと時間が足りなくて・・・。その、美味しくできたかわからないんですけど・・・」

「いや、ありがとう、手料理だなんて嬉しいな」

「なんだか照れますね。どうぞ、召し上がってください」

そこに並べられたマグロ、イカ、タイ、玉子。寿司だった。あの間にキッチンで何が起こったのか、俺には皆目検討がつかなかった。うわ、このなんだアナゴ、めっちゃ美味しい。

月が顔を出しもうずいぶん経つ。食事の後片付けも終え、とくにすることもなく2人でタバコを燻らす。彼女はさっきまでと打ってかわって静かだった。俺もつられてしゃべらなくなる。ひょっとしたらテレパシーでしりとりをするという新しい試みかと思ったが、どうやらそれも違うようだ。だって「リンゴ」と送り続けているのに、一向に「ゴリラ」が返ってこない。とても静かだ。でもそこに訪れた沈黙は、気まずさの象徴ではないことは確かだった。何度か彼女と目が合った。何か言おうとして、何度も引っ込めている様子だ。俺のほうからけしかけてみるか。俺はそっと彼女の目を見る。

「どした?」

「あ、あの・・・」

「うん」

「私・・・やっぱりあなたが好きです」

・・・うん。俺だって大好きだよ。

「あなたの残りの人生を・・・全部私にくれませんか?」

・・・そんなもん嬉しいに決まってる。待ちに待った言葉だよ。でも・・・本当にいいのかい?本当にもらってくれるの?すごく辛いかもよ?俺、あと3ヶ月で死ぬんだよ?どうしよう、彼女がたまらなく愛しい。じゃあ、いいよ、あげるよ。欲しいならいくらでもくれてやる。3ヶ月全部あげる。俺も君に、君にもらって欲しい。でも一方通行じゃない。ちゃんと俺ももらうよ。君からもらう3ヶ月も、僕があげる3ヶ月も、大して変わりなんてないんだよ。

「お邪魔じゃなかったら・・・一緒に住んでもいいですか?」

彼女がかしこまりながら言ってくれたそのセリフに、俺は断る理由などなかった。心から嬉しかった。俺の人生、残り3ヶ月。できればその期間中1秒でも多く彼女と一緒にいたいと思っていたから。

「うん、死ぬまで一緒だ」

まだ彼女を傷つける不安が拭えたわけではない。いや、そのときがくれば確実に傷つけることになるだろう。彼女はたくさん涙を流すだろう。でも俺は彼女と一緒にいることを選び、彼女は俺と一緒にいることを選んだ。俺は信じ、願う。彼女が傷つかないことではなく、彼女が自身で選んだこの道を、後悔しないでくれることを。

俯き照れる彼女を、俺は引き寄せ、強く抱いた。

「くるみさん」

「まりもっこりさん」

彼女は俺の胸の中で小さくつぶやいた。少しだけ腕の力を緩める。

「くるみって呼んで欲しいです。さん付けなんて嫌です・・・。もっと近くに感じたい・・・」

「そっか。そうだよね。じゃあ俺にもさん付けはやめて」

俺は思った。なんて愛らしい。そして俺はさっきより強く彼女を引き寄せ、もっともっと強く抱いた。

「くるみ!」

「もっこり!」

俺は思った。なんでこんな名前にしてしまったんだろう。適当って怖い。

彼女の荷物は、女の子のそれにしては多くなく、引越しはすぐに終わった。彼女の荷物がうちにあるのという事実は、俺に何か不思議な安心感をもたらせた。これがある限り彼女はどこにも行かない。これがある限り俺は彼女に会える。洗面所では暖色の証明に照らされて、彼女の歯ブラシに俺の歯ブラシがもたれかかっている。

俺はそんな何気ない光景を見て思った。

レイプ。

こうして俺たちの共同生活が始まった。

(続く)

第5話へ ・ 第7話へ

適当って本当にこわい。

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2007年11月21日 (水)

ケータイ小説~あん空~5

Annsora あん空5話目。ようやく折り返し地点ぐらいまで来たんじゃないでしょうか。ただ前々から言うとおり僕自身ケータイ小説の知識が乏しいんですよね。ドラッグ、妊娠、死。あとは何?本当は出会い系とか出てこないの?ケータイ小説といえばこれ!みたいなキーワードがあったら教えて下さい。ネタバレ上等です。

初めての方は 第一話 からお読みください。第2話 第3話 第4話


あん空

※この物語は全てフィクションです


5.

-彼が何を言っているのか、はじめ私にはまったく理解できなかった。

「俺・・・タラチャーンチョットソレトッテ病なんだ」

本当にまったくわからなかった。何?

「何?」

「いや・・・タラチャーンチョットソレトッテ病」

「え?」

「いや・・・タラチャーンチョットソレトッテ病」

彼の話により、私はそのタラチャンなんとかの特徴を、少しだけ掴む事が出来た。まず6兆人に1人の割合でかかる奇病であること。その病気にかかると、卵かけご飯を食べると体が黄色くなって死んでしまうこと。そして残念ながら未だに治療法が見つかっていないこと。・・・え?でも・・・だったら卵かけご飯を食べなければいいのではないか?私のその考えは単純でも正解に思えた。そして私のその意見を聞いた彼は、「もちろんそうだ。でも」、と前置きした上でさらに続けた。

「俺・・・カーアサンコノアジドウカシラ病なんだ」

またしてもまったくわからなかった。今度は何?

「今度は何?」

「いや・・・カーアサンコノアジドウカシラ病」

「え?」

「いや・・・カーアサンコノアジドウカシラ病」

彼の話により、私はそのなんとかコノアジなんとかの特徴を、少しだけ掴むことが出来た。まず18兆人に1人の割合でかかる奇病であること。その病気にかかると、1年に1度卵かけご飯を食べないと死んでしまう体になってしまうこと。そして残念ながら未だに治療法が見つかっていないこと。

彼はこれまで9ヶ月卵かけご飯を食べなていなくて、残された期間、つまり余命は3ヶ月ということになる。食べても死ぬ。食べなくても死ぬ。一つ一つの病気はたいした事ないが、二つ合わさるとなんと極悪な組み合わせだろう。そして実際その二つにとりつかれた彼は、なんと不幸な人なのだろう。

私は神を呪った。あなたはどうしていつも私の大切な人を奪うのか。

そして私は少しだけ彼を責めた。あなたはどうしてこんなにも大事な事を秘密にしてたのか。どうして私の悩みだけを当たり前のように聞いてくれたのか。そんなこと彼だって軽々しくは言えないのは私にもわかっていたけれど、それでも私は悔しかった。

こうやって彼の話を聞いて、彼の思いを全部聞いて。彼が私の前から消えた理由。押しつぶそうとした私への気持ち。そして彼に気を使われた私。自分だけ不幸面していた私。病気を共有できない私。全てが悔しかった。そしてその悔しさと表裏一体にあるのは、確実に愛しさだということを、私は自分で痛いほどわかっていた。

まだ出会ってそんなに経ったわけじゃない。実際会ったことなんて今日を含め、たった2回しかない。でも私にとってそんなことは、さして重要ではないことを知る。じゃあどれだけの時間を共にすれば胸を張っていいの?何度も何度も会わないとこの気持ちは嘘だと言うの?決してそうじゃない。時として、時間を越えるものは、そこに確かにある。

自然と涙がこぼれた。それは彼が病気だと知ったショックから来るものではなく、もっとこう、強くも脆いもの。あぁ、そっか。そうだ、そうなんだ。私、恋をしているんだ。ずっとわかっているつもりではいたけれど、こんなにも強く実感するのは初めてだった。

私を頼って。私も頼るから。一緒にいれば1人じゃないよ。愛し合おう?3ヶ月だっていいよ。その時が来て、私がどんなに悲しくてくちゃくちゃになってもいい。私はあなたの側にいたい。

明くる日の朝になると私は家に帰った。私の中での、とある決心とともに。自分の部屋につき、荷物をまとめる。そんなに時間もかからなかったし、そんな量にもならなかった。ドライヤー?いらない。頭ブンブン振れば髪は乾く。化粧品?いらない。頭ブンブン振ってれば顔は見えない。血塗られた盾?いらない。と言うより、なんで私こんなもの持っているのだろう。大相撲カード?これは、まぁ、いるかな。なかったらなかったでそれほど困らないものなどいくらでもある。増してや3ヶ月という期間つきならば。

「お母さん・・・大事な話があるの・・・」。そう言って私は母を椅子に座らせた。

「何なに?目が覚めたらお尻が横に割れてたの?やったね!」。母はいつもこの調子である。

「違う!・・・私好きな人ができたの・・・」

「・・・へぇ。・・・それで?」

「その人と一緒に暮らしたいの」

「・・・ダメよ。まだヒヨっ子のあんたが同棲だなんて笑っちゃうわ」

私は母のその物言いにカチンときた。

「ちょ、何さそっちだってババァのくせに!」

「そうよ!でもババァにはババァの魅力があるのよ!沸騰した鍋に4、50分つかるといいダシがとれます!」

「何訳わからねぇこと言ってんだよ、ババァ!」

「なんて汚い口の利き方するの!きっとお父さんに似たんだろうね、昔のあの人そっくりだわ!」

「うるせーよ!」

「ヘイヘイクリソツヘイヘイ!まったくもう、そんな口の利き方されたらぞくぞくしちゃうじゃない!」

「あぁ?ババァMか?」

「ふん、あんたみたいなヒヨっ子にそんなこと教えても仕方ないわ。それよりあんたさっきからババァ、ババァって何なのよ!」

「悪いかよ!?」

「ちゃんとクソババァと呼びなさい!」

「ドMじゃねぇか!気持ちわりーんだよ!」

「JOY!」

「ジョイ!じゃねぇよ!」

母との口論は夜更けまで続いたが、結局私が欲しい許しは最後まで得られなかった。こうなったら仕方がない。できればやりたくなかったけど、もう残されたのは強行手段しかない。私は夜明けと共に家を出ることに決めた。誰にも内緒で。手紙だけを残して。母には少し悪いと思ったが、それよりこの思いを止められそうになかった。

東の空が明るさを帯びてきた。もう電車も走り出す時間だろう。私は荷物を持ち、そっと玄関のドアを開けようとした。

「どこ行くんだい?」

後ろを振り返ると、そこにはいつもなら昼まで寝ているはずの母の姿があった。しまった。見つかった。私は何も言えず、その場で黙りこくってしまった。そんな私を見て、母はゆっくりと口を開いた。

「あんたやっぱりお父さんにそっくりだ。お父さんもこんなあたしとの結婚を両親に反対されて駆け落ち同然で家を出た。それは世間的には許されない行為かもしれない。でも本当に嬉しかった。あたしはそんなあの人が大好きだった。それでね、あの人にそっくりなお前も、やっぱりあたしは大好きだよ」

止められると思っていた母からの一言は意外だった。

「あたしも少しは親らしくしようと思ったけどさ。こうなったら止められないわね。やっぱりカエルの子はカエルだね。」

お母さん。

「これ持っていきな」

母にティッシュに包まれた何かを渡された。今時ティッシュに包むなんて。なんて不恰好でなんて不器用で、なんて優しいんだろう。

「くるみ、後悔するんじゃないよ?」

笑いながらそう言って私に片手を突き出し、指を1本だけ立てる母。お母さん、普通はこうゆうとき親指を立てるもんだよ。中指はちょっとまずいよ。

私は電車の中で泣いた。母のことを思って泣いた。私、絶対後悔しないよ。3ヶ月後、私が家に戻ったら今までよりもっとお母さんを大切にしよう。出来る限り言う事を聞こう。私は出かけに母に渡されたティッシュの包みをポケットから取り出す。一体中身はなんだろう。少しだけワクワクして、そっと包みをあけてみた。

ティッシュの中からはなんと、ティッシュが出てきた。

ティ、ティッシュ・イン・ティッシュ!

(続く)

第4話へ・ 第6話へ

ババァかっこいいー。会話文ってスペース使うなぁ。あんまり長引かせちゃいけないと思ってはしょってたら、展開がちょっと速すぎる感じになってしまいました。

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2007年11月20日 (火)

ケータイ小説~あん空~4

Annsora あん空4話目です。日本では4は縁起の悪い数字として君臨していますが、実際どうなんですかね?たぶんあん空は10話ほどで完結する予定です。そんなにもたなかったりして。あはあはあは。

っていうかタバコの吸殻のやつがネタバレしててビックリした。みんなすごいなぁ。

初めての方は 第一話 からお読みください。第2話 第3話

 


あん空

※この物語は全てフィクションです


4.

-あれから一週間が経った。

会っていないのはもちろんのこと、何度か来たメールにも俺は一度も返信をしなかった。その行動は冷たいとも思う。今頃彼女は落ち込んでいるかもしれない。でもあの時のままの関係を続けていれば、俺は確実にもっと彼女を傷つけることになっただろう。俺の選択が正しかったと言うつもりはない。逃げたと言われても仕方がないと思う。悪いとも思う。でも俺にはこれしかできなかったのだ。

俺は描きかけた絵を破り捨て、筆を強く置きキャンヴァスから離れた。ひどく心が乱れている。俺は乱暴にタバコの箱を取り、一本取り出し火をつけた。まったく味がしない。今の俺にはそれすらも感じれないのか。と思ったら上下逆に咥えていた。

ここのところ何もかもがうまくいかない。絵を描いてもダメ、ギターを弾いてもダメ。何を食べてもうまいと感じないし、テトリスをやっても棒が来ない。いくら頑張ってもお米には字が書けない。

彼女と接触しないと決めたのは、実際に会ってみて彼女に幻滅したからではない。彼女の魅力が乏しかったからでもない。顔にコンプレックスを抱えた女性達が整形手術をする番組の、「ビフォー」みたいな顔をしていたからではない。むしろまるで逆。彼女は思っていたよりずっと美しく可憐で、まるでスミレのようでまるでヒマワリのようでまるでフリージアのような、本当に凛と咲く花ようのだった。その姿に俺は、うっかり頭から水をぶっかけそうになってしまったほどだ。はっきりと言い切れる。俺は彼女に一目惚れをした。会って以来、俺の描く女性像が全て、どこか彼女に似てしまうのが何よりのいい証拠だろう。さっきまで描いていた絵にしたってそうだった。そしてまた、彼女が俺のことをよく思っていてくれてるのも俺にはわかっていた。でも、だからこそ会えない。そんな人を平気で傷つけられるほど、俺は団鬼六ではなかった。 

俺は彼女を避けた。距離をおいた。遠ざけた。それは悲しくも仕方がない好意であり行為であった。メールは無視し、着信拒否し、玄関に盛り塩を構え、結界をはり、ニンニクと十字架を備え、お札を貼り、水を入れたペットボトルを家のドア付近に置いておいた。

会いたくないわけはない。でも会えないわけも確かにあった。苦しい。心が破裂しそうだ。外を降る土砂降りの雨が、俺の心を尚一層湿らせた。

出会い系で女を求めたのには、ある理由がある。俺は怖かったのだ。自分に起こった不幸が。ただただ怖かった。妖怪うなぎ坊主ぐらい怖かった。だから側にいてくれる人が欲しかった。一緒に戦ってくれる人が欲しかった。守ってくれる人が欲しかった。その相手は誰でもいいと思っていた。惚れた女じゃいけないことには気がつかなかった。そしてその女にまさか惚れるとは、思ってもいなかった。

くそ、俺は一人だ。一人。このまま一人・・・。

コンコンコン。

ドアをノックする音。え?こんな時間に?時計は23時半を回りかけている。 誰だ。新聞勧誘か? いや、まさか。それとも、あの時助けた鶴が恩返しに来たのか。ほほ、これで俺も大金持ちだ。俺は風呂以外は覗かないから大丈夫。いやいや、まったく俺は何をバカなことを考えているのだ。それにしても本当に誰だろう? 鳴り止まぬノックに、俺は恐る恐るドアを開けた。

そこには隣の部屋の女子大生が立っていた。

「あの、これ、作りすぎちゃったんでもしよかったらどうぞ」

「あ。ありがとう。助かるよ・・・?」

俺は部屋に戻り、渡されたガンダムのプラモデルを眺めた。へー作りすぎたんだぁ・・・。

コンコンコン。

しばらくして再びドアをノックする音。まったくお客さんが多い夜だ。今度は誰だ。さっきの女子大生がやっぱり惜しくなって取り返しに来たのか?それとも中学校2年のときの担任が、今になって花瓶を割った犯人が俺だと気づき、正直に謝る事の素晴らしさを説きにでも来たのか。俺は再びドアを開ける。しかし、そこにいたのは俺の予想だにせぬ人物だった。

「く、くるみ・・・さん・・・!?」

そこには雨でずぶ濡れになった彼女の姿があった。

「な、なんで?」

「突然ごめんなさい。私どうしても、どうしても会えない理由を聞きたくて・・・」

とりあえず俺は彼女を部屋に入れ、タオルを渡し、暖かいコーヒーを淹れた。インスタントだし賞味期限もとっくに切れているが、体は温まるだろう。大丈夫、彼女お腹強そうだし。彼女から聞いた話によれば、この前会った時に免許証を盗み見て、それで覚えた住所を頼りにここまで来たらしい。正直驚きは隠せなかった。正直少しだけ失禁してしまった。彼女の行き過ぎた行動は、本来なら恐怖してもおかしくはないそれだ。でもその反面、そんな彼女を少しだけ嬉しく思う自分もいる。これが惚れた弱みというやつだろう。

時間が経って彼女は少しずつ落ち着きを取り戻してきた。乱れていた呼吸も、今は平常に近い。タバコを吸い、俺の出したコーヒーを飲みながら、ソファーに寝転びジグソーパズルをやる彼女。ちょいと落ち着かせ過ぎたかもわからない。それよりさっき彼女が言っていたセリフ。会えない理由。こうなったらもう隠せないのかも知れない。いや、本当はわざわざこんな雨の日に俺に会いに来てくれた彼女に、聞いておいて欲しかった。そしてできるなら。それでも側に、側にいて欲しい。

「あのさ・・・会えないって言った理由・・・」

彼女は手を止め、体勢を整える。そしてまるで全神経を俺の一言に傾けるかのように言った。

「・・・はい、覚悟はできてます」

覚悟か。試すつもりじゃないけど、聞いてくれ。そしてできたら。耐えてくれ。

「俺・・・実は・・・」

怖ろしいほどに静かだった。

「後三ヶ月の命なんだ・・・」

俺は静寂の中に彼女の覚悟とやらが壊れる音を聞いた気がした。俺の一言を聞いた彼女は色のない顔をしていた。ただそれは、驚きと落胆と戸惑いといくつものマイナスが混ざり合った、すごく痛々しい感情から生まれる表情なのだと俺にはわかった。だってそれは、俺が自分の病気を医者に聞かされたときの顔とほとんど違わなかったのだから。

(続く)

第3話へ・ 第5話へ

えー彼死ぬらしいです。まぁしょうがないですね。だってケータイ小説なんですから。

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2007年11月19日 (月)

ケータイ小説~あん空~3

Annsora さぁ早くも3話目を迎えたあん空です。長編なんで当たり前なんですけど、終わりが見えないのがちと怖いです。僕本当にこんなの書いてていいんですか?こんなのばっかりでうちのブログは大丈夫なんですか?まぁとにかく完結に向けて一直線。皆様飽きずに読んでくださいね。

初めての方は 第一話 からお読みください。第2話はこちら

 


あん空

※この物語は全てフィクションです


3.

-待ち合わせ時間5分前に着くと、彼はもうすでにそこにいた。彼がどんな格好をしているのか前もって教えといてくれなければ、おそらく私は彼に気づけなかっただろう。彼は私の想像していた像とはかけ離れていた。まったく期待していなかったと言えば嘘になる。でも彼は、私のその期待を軽々しく飛び越えた。

その痩せすぎた体は、でも怪しげな色気さえ纏っていた。その長身に綺麗に整った顔立ち。黒く肩まで伸ばしたキューティクル半端じゃない髪。立っているだけで絵になっていた。ただたった一つだけ疑問に思うことがある。そのファッションセンスは一体どういうことなのだろう。彼がいわゆるイケメンであるために、余計に滑稽に見える。特にその中に着たTシャツはなんだ。シャツの真ん中に「ペッサリー」と書かれている。体を張って避妊の大切さを訴えているのか?それとも単に悪ふざけの一種なのか?私には彼の意図がまるで読めない。なんだペッサリーって。あまりのインパクトに私は逆に妊娠しそうになる。

「くるみさん・・・ですか?」

最初に話しかけてきたのは彼からだった。突然の出来事に私は驚いて心臓がとまるかと思った。もしかしたら実際ちょっと止まっていたのかも知れない。なにやら川のようなものが見えて、向こう岸で死んだおじいちゃんが手招きをしていた。

「あ・・・は、はい!そうです!・・・まりもっこりさんですか?あ、あの遅れてしまってごめんなさい!」

「いや、俺もちょうど今来たところなんで」

やっぱり彼は優しい。私は彼の足元にタバコの吸殻が何本も落ちているのを知っていた。

待ち合わせ時間が夕暮れ過ぎという時間だったため、私達は一緒にご飯を食べに行くことにした。彼に案内されるままに、レストランの席に座る。静かで小じゃれた隠れ家のようなイタリアンレストラン。周りの席に座っているのも、何か知ったような上品な男女ばかりだった。へー、なんかすごいなぁ。私浮いてないかな。私も語尾にザマスとかつけたら少しは馴染めるのだろうか。少し前まで「フォアグラ」を、大リーガーによって新しく生み出された変化球と勘違いしていた私には、右も左もわからない。

彼はこういうお店にによく来るのだろうか?来るとしたら誰と?他の女とに決まっている。私は体内が少し波立つ感覚を覚えた。

「あ、好きなもの注文してください」

私の邪推を遮るかのように、彼が言った。そ、そうですね!あはは!なんて。恥ずかしい。しっかりしろ私。しかし彼に渡されたメニューを見ても、普段こんな大層なお店で食事をする機会がない私には、何が書いてあるのかさっぱりわからない。何これ?イタリア語?彼に聞いたら教えてくれるかもしれない。でもできればそれはしたくない。彼に気に入られるために、私は知的な女を演じたい。

「じゃ、じゃあこれで!」

私は適当にメニューを指差した。まぁ何が来ても好き嫌いのない私には大丈夫だろう。彼は少し驚いた顔をした後すぐに笑顔に戻り、店員を呼び、私の分も一緒に注文してくれた。その姿は正直言って格好よかった。

「あ、あの、イタリア語わかるんですか?」

「えぇ、以前少し勉強していたもので・・・。くるみさんこそよくわかりましたね。何の説明もいらないなんて」

「あ・・・私も前に・・・少し・・・」

私はとっさに嘘をついた。彼に気に入られたい一心だった。料理が来るまでの間、私達は少し話をした。この店の内装について、最近の天候について、煮っ転がしについて、私達の出会いとこれまでの経緯について。緊張してうまく話せなかったけれど、彼が自然に会話をリードしてくれたために、それはそれは心地よい時間となった。ただその流れに乗って彼がしてきた質問は、私の心臓の鼓動を早めた。

「実際俺に会ってみてどう思いました?」

「え!?・・・あ、その・・・」

言えない。思ってたより格好よかったなんて言えない。予想していたのより遥かに魅力的だったなんて言えない。とてもいい人なのは知っているし、このままいったらたぶん好きになってしまいそうだなんて、まさか言えない。しどろもどろになった私に、助け舟を出すかのようにウエイターがタイミングよく私達の会話に割って入った。

「お待たせしました、こちらピッッッッッツァマルゲリータになります」

「あ、僕です。ここのマルガリータは美味しいんだ」

彼は私におもちゃを自慢するように言った。そんな彼の瞳の輝きが私は嫌いじゃなかった。

「お待たせしました。こちらヤマザキのチーズ蒸しパンになります」

「・・・え?」

何も言わない私の前に蒸しパンが置かれた。いやいや、え?えぇ?意味がまったくわからない。何をどこでどう間違えて、こんなものが私のもとに届いてしまったんだろう。私がつまらない見栄をはったからいけない?いや、どう考えてもメニューにこんなものを忍び込ませた店側に悪意を感じる。だって「ヤマザキの」とか言っちゃってるし。いや、これはこれで美味しいんだよ?そりゃそうなんだけどさ・・・。

食事が終わったあと、私たちはもっとゆっくり話をした。幸いにもさっきの質問に対する答えの続きも聞かれず、私の緊張も少しずづ緩んできた。カレシが死んでから、こんなに素直に笑え、こんなに優しくなれた自分は初めてだった。

突然ケータイ電話の着信音が響き、それに気づいた彼は大袈裟に、「しまった」という顔をした。私に「ごめんなさい」と言い、彼に「いいですよ」と言う私。彼は席を外し、私の見えないところへと移動した。ふと、テーブルの上に置かれた財布が目に入る。やばい、すっごい気になる。私はいけないと思いながらも、周りを何度か確認したのち中を見てしまった。

免許証。少し若い彼の顔写真。へーこんな本名なんだ。へーこんな所に住んでるんだ。でも待って。こんなことを知って私は一体どうするつもりなんだろう。こんな情報がこの先なんの役に立つんだろう。もしこの先も、彼が私と仲良くしてくれるとして、こういった情報は彼の口から聞けばいい。また、そうであって欲しい。私は免許書を財布に戻し、財布を元あった場所に戻した。なぜか財布の中に大量に入っていた、小さく袋詰めされたお持ち帰り用紅しょうがも見なかったことにした。そしてそれからしばらくすると彼は申し訳なさそうに戻ってきた。

店を出て駅までの道を一緒に歩く。どうして楽しい時間はこうもあっという間に過ぎてしまうのだろうか。今日の終焉はもうすぐそこだ。彼は私に会ってどう思ったのだろう。私と過ごした時間をどう感じたんだろう。私は楽しかった。すごく、すごく楽しかった。でも彼は・・・?

別れ際に彼が言った一言は、そんな私を一発で安堵させた。

「今日はありがとう。とても楽しかったです」

浮かれすぎて自動改札に挟まれたのが、彼と別れてからで本当によかった。駅からのいつもの一人の帰り道。周りの人は寒そうに体を小さくしていたけれど、私は不思議と暖かかった。いや、本当は不思議じゃない。彼が言ってくれた、楽しかった、というセリフが私を暖かくしているんだ。周りを見ると、何故かおっさん達がみんなスキップで移動している。私もスキップをしたい気分だったけれど、このままだと私まで怪しい宗教団体か何かの一部だと思われそうなのでやめておいた。あーそれにしてもいい夜だなぁ。

家につき私は彼にメールを送った。

「今家に着きました。今日はとっても楽しかったです。また遊んでくださいね!」

いやらしすぎず、冷たすぎず。きっとこのぐらいがちょうどいい。今頃彼も家についただろうか。彼からの返信が待ち遠しい。ただそのメールだけを待って、ただただケータイの側にずっといる私。地獄の黙示録のテーマ曲である着信音が鳴ると、私はすぐにケータイを開いた。でも彼からの返信は、決して私が待っていたそれではなかった。

「ごめんなさい、もう会うのはやめましょう。ごめんなさい」

(続く)

第2話へ ・ 第4話へ




あーなんか楽しくなってきた。ケータイ小説万歳。チーズ蒸しパン食べたい。

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2007年11月18日 (日)

ケータイ小説~あん空~2

Annsora いやはや完全な見切り発車の前回がまさかの好評だったんで、続き書きます。ここまできたらちゃんと完結させます。忘れられないようにこればっかり書きます。更新頻度も上げていかなきゃ。あん空。ケータイ小説です。ケータイ小説ってなんですか?

初めての方は 第一話 からお読みください。
 


あん空

※この物語は全てフィクションです


2.

-ハンドルネーム「くるみ」。その子から返事があったのは、ついさっきのことだった。いつになく返事が遅かったので、正直いい答えは聞けないと思ったのだが、どうやらそれは杞憂に終わってくれたようだ。明日か。俺と彼女は正式に、明日東京で会うことが決まった。もちろん嬉しくないわけはない。しかしこの返事に安心をしている時間も、また、ない。時刻はもうすぐ23時を回る。

ハンドルネーム「くるみ」。出会い系サイトで出会った女の子。事故で恋人を失い、悲しみと寂しさに打ちひしがれている女の子。優しく、また紳士的に振舞ったら簡単に引っかかった哀れな女の子。はっきり言ってしまえば、俺にとって相手なんかは誰でもいいのだ。ただ誰かいてくれれば、それでいい。彼女を騙している罪悪感のようなものは多少あったが、俺はきっと許される。だってどう考えても、俺は彼女より不幸なのだから。

俺は彼女に返信として、明日の場所と時間を告げるメールを送り、ノートパソコンを閉じた。パソコンは少し熱を帯びていた。

立てて置かれたギターにかけられたジャケット。それを手に取り羽織る。

ギター。昔やっていたバンドで使っていたものだ。音楽雑誌に告知されていたメンバー募集の知らせを見て、スタジオで待ち合わせたそのバンドのリーダーに会った。

「元々ロックンロールが好きでギターはやっていたし、新しい世界を見てみたくてバンドに入りたいと思った」

俺が熱くそう言うと、リーダーは何も言わずに、ただ頷いてくれたのを思い出す。バンドでの演奏はそれなりに楽しかったし、それなりに盛り上がれたけど、今はもう行っていない。

あれかもう3年も経つのか。辞めた理由はそれなりだ。音楽性の違い、と言葉の違いと人違い。まさかメンバー全員がタイ人で、まさかムエタイ音楽を奏でてくれるとは思ってもみなかった。きっと僕が待ち合わせした本物のリーダーは、隣のテーブルに寂しそうに座っていた人だったのだろう。それ以外これといって感傷に浸れる思い出も、ない。

音楽は趣味のようなものだ。息抜きというか、とにかく本職ではない。俺は今、売れない絵描きをやっている。元々何かを表現するのが好きなんだと思う。音楽も楽しかったし、絵も楽しい。ただ、一人部屋の隅で、好きなものを気ままに表現できる絵の方が、俺の性にあっていることに気づいたのだ。好きなことをして飯を食う。昔から天才肌だった俺にとって、たった一人俺の口に糊をするぐらいは、さほど難しいことじゃなかった。

愛車にまたがり、ヘルメットをかぶった。外は少し寒い。ゴーグルをはめる。調子はどうだい相棒、もちろん返事はないとわかりつつ聞いてみる。なんのことはない、一種のナルシズムだ。「ガタリ」。その物音のほうに俺はすぐさま振り返った。隣の家の二階の窓から、ババァがよだれをたらしながらこっちを見て微笑んでいる。しまった。今の恥ずかしいセリフを聞かれたか。しかもよりによって、この「歩くフライデー」と称されるババァに。どうやら今度芋ケンピを与えて買収しなければならないようだ。

走る。走る。やはり一人走る誰もいない夜道はこの上なく気持ちがいい。走っている間は嫌なことを全て忘れられた。歩くフライデーも、ポケットにティッシュを入れたまま洗濯してしまいえらいことになったことも、急いで駆け込み乗車をし、「ハァハァ」と言いながら間違えて女性専用車両に乗ってしまったことも。そしてまた、自分自身に舞い降りた不幸も。走ってる間だけは無に帰る。この疾走感。この浮揚感。たまらない。誰にも止められない。あぁ、これだから一輪車はやめられない。俺はまるで夜の闇をかっ裂くように、ピヨピヨとペダルをこいだ。

24時間営業の大型量販店につき、一輪車を停める。店の入り口付近の駐車場には何人もの若者達がたむろしていた。金や、銀や、銅に染めた長い髪。揃って不自然にやけた黒い肌。それでも別に俺に危害を加えないならかまわない。若者達は輪をつくって地べたに座り込んでいた。きっとハンカチ落しでもやっているに違いない。

明日は、一応デートという形になるのだろう。普段は980円以上の服を買わない主義の俺とて、そのためにはオシャレな服の1枚も着ていかなければなるまい。ジャケットは今着ているものでいいとして、その下に着るシャツ。それを買いに来たのだ。適当に服売り場を歩いていると、一枚の黒いTシャツが目に入った。意味はわからないが、格好のいい横文字が記されている。最近の音楽は聴かないのでわからないが、きっと海外のパンクバンドか何かなのだろう。中々ワイルドでいいじゃないか。俺はそのTシャツを手に取り、レジへと向かった。多少痛い出費だがまぁ仕方がない。全ては明日のためだ。

店を出るとどうやら若者達は帰ったようだった。辺りはさっきとはうってかわって静かだ。その静寂が、改めて俺の覚悟を助長した。是が非でも明日は失敗できない。俺には、時間がない。

愛車の元に戻った俺に衝撃が走る。それは買った荷物をうっかり落としてしまうほどだった。

一体このわずかの間に何が起こった?さっきの若者達のしわざか?

そこにはタイヤが盗まれた俺の一輪車が転がっていた。たった一つしかないタイヤがなくなった。これはもう乗り物じゃない。鉄だ。

仕方なくサドルだけ外し家に持ち帰る。背中のほんのちょっとした上のほうの部分がかゆいときに、孫の手がわりに使えるかもしれない。

(今度こそ続く)

第1話へ  ・ 第3話へ




男目線からも書いてみました。もうやりたい放題です。

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2007年11月16日 (金)

ケータイ小説~あん空~

Annsora 昨今ケータイ小説が大ブームということで僕もちょっとあやかってみたいと思います。ほら、だって人気欲しいし。いやらしい話ですけどね。

いや、ケータイ小説ってちゃんと読んだ事ないんで全然詳しくはわからないんですけど。聞いた話によるとなんかこんな感じかな?うわー小説書くなんていつ以来だろう。目指せ出版化。目指せ映画化。





あん空

※この物語は全てフィクションです

1、

-カレシの彦麻呂が死んでからもう3ヶ月が経つ。それは余りに突然の出来事だった。交通事故。衝撃だった。あれほどバイクには気をつけてって言ったのに。あれほど大丈夫だって言ってたのに。バイクから降りる時にバナナの皮を踏んづけて転んで頭を打って死亡。冗談みたいな状況なのに一つも笑えなかった。

彦麻呂。売れないホストだったカレシ。体中に印した大きな龍のようなタトゥー。のようなシール。もう見れないんだね。もう触れないんだね。

その事件以来、私は家からほとんど外に出なくなった。俗に言う引きこもりだ。家でインターネットを徘徊し、出会い系サイトにひたすら書き込む日々。別に誰とも会う気はない。ただそうしていないとおかしくなりそうだったし、そうしている自分をおかしいと感じれるのがせめてもの救いだった。

「会って話そうよ」「俺、俳優の○○にそっくりだってよく言われるぜ」。くだらない。

「3万円でどう?」「俺、若い頃の親父にそっくりだってよく言われるぜ」。バカみたい。

ただ最近そんな出会い系の中で、たった一人だけ気になる人がいる。ハンドルネーム「まりもっこり」さん。彼は他の男とは明らかに違った。彼はすごく優しい。彼と文字で接しているとき、ゆっくりと癒されている私がいた。まるで心に染み込むように私の中に入ってきた。この人だけは私に体目当てじゃなく接してくれる。そう感じられた。こんな状況で出会い系サイトを続けていたのは、きっとどこかで彼のような人を探していたのかもしれない。実際彼と出会って以来、私はほとんど出会い系サイトにアクセスしなくなった。

彼とはいろんな話をした。家族の話、友達の話、テレビの話、煮っ転がしの話。時に恋の話や悩み事を聞いてもらったこともある。連絡方法はメールだったので、声も、増してや顔も知らなかったけれど、それでも彼を近くに感じることはできた。彼からのメールアドレスが画面に表示される度に私は嬉しくなり、彼からのメールが来ない時間が増えると、私は簡単に不安になった。でも彼からの返信がなかったことは、ただの一度としてなかった。いつだって彼はちゃんと私と向き合ってくれた。

そんな日々の中、ある日突然私は彼にだけカレシのことを話そうと思った。友達にも、親にも言えなかったこと。彼だけはわかってくれ、そして許してくれるような気がしたのだ。カレシの死。自分でも怖くて、逃げてきた部分。彼と一緒なら戦える気がした。また前を向けるような気がした。だから。私は彼にメールを送った。長文にも関わらず返事はすぐに返ってきた。

「亜Cv不意hふぉgajsoヴぉジャjl;おhyg;おlpp<;あsjこぺdkbk;jik」

彼は優しい。彼は時々こんな風に意味不明なことを言って、私を笑わせてくれるのだ。きっとカレシの死を笑い飛ばせとのメッセージなのだろう。最近気づいたことがある。私は彼と接しているとき以外笑っていない。学校にも言っていないし、友達にも会っていないので、ある意味じゃ当然なのかもしれないけれど。それでも彼は私を笑わせてくれる。いつもは真面目で硬いメールばかりなのに、時々こんな風に意味不明な面白いメールを送ってくれる。あの事件以来本気で笑えなくなった私。そんな私を少しずつ変えてくれた彼。少しずつ変わった私は、少しずつそんな彼に惹かれていった。

「今度の日曜日東京に行きます。もしよかったらお会いしてみませんか?」

彼から突然そんなメールが届いたのは金曜日の夕方のことだった。私は驚き、ベットから転がり落ち、壁を破壊し、屋根に上って月に吠えた。久しぶりに心臓の鼓動を聞いた。どうしようか。本当はすごく会ってみたい。でも迷った。私に会って幻滅はしないだろうか。どこかに行ってしまいはしないだろうか。今の私の支えは彼しかいない。彼を失いたくはない。会わずにいたら、きっとこのままでいれるだろう。でも、会ってみたい。

彼に返事を返す前に、ケータイ電話を手に取り、とある番号に電話をかける。

「あ、明日予約を入れたいんですけど・・・」

久しぶりの他人との会話に、声の出し方がうまくわからなくなっている。ひどく緊張もする。それでも頑張らないと。彼と会うために。ボサボサに伸びた髪。ずいぶんと施してないメイク。このままじゃダメだ。明日美容院に行って、もしちゃんとかわいくなれたら、そのときは彼と会おう。私はそう決めた。

電話を切った途端にお腹が鳴った。あれ、あたし、お腹空いてる。久しぶりの感覚だった。当たり前だけど、そんなことで私はちゃんと生きていることを感じた。

「お母さん、今日のご飯何?」

「ドラッグよ」

「・・・」

仕方なく私は自分でお湯を沸かし、カップラーメンをつくる。いつも通りのもやし味噌だけど、今日は食後のタバコも含め、なんだか美味しく感じられた。

ハイになったお母さんが、お父さんの靴に小さいサボテンを忍び込ませている。こうなった母はもう止められない。でも、今日はそれさえも優しく感じられた。その日のベッドの中での寝れない感じは、今までとは違って決して不快なものではなかった。

(続く?続かない?)

第2話へ

なんだこれ?本当にこれで合ってる?彦麻呂って何?

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2007年11月15日 (木)

ちょっとレゴらない?

Lego_2  小さい頃の僕のおもちゃといえば、お人形と、あとはレゴブロックだった。

レゴブロックとはプラスチックの組み立て式ブロックで、多種多様な形とアイデアでお城も作れたし、はたまた車も作れるし。そんな夢のようなおもちゃなのだ。そして僕は、このレゴがもう大好きで大好きでしょうがなかった。今も実家の自分の部屋には当時つくったレゴの大きな船が飾ってある。

実家の近くにレゴ会館と呼ばれる建物がある。それが公式名称なのか、ただ皆がそう呼んでいるのかははわからない。でも「LEGO」と赤い看板を掲げた建物があるのだ。中にはレゴで作られた、人の身の丈ほどもある人形が微笑んでいた記憶がある。

(今ネットで調べてみたところ、どうやらそのビルはレゴジャパン株式会社の本社らしい。マジで?そんなすごいところだったんだ。知らなかった。)

とにもかくにもそこから僕宛に、年に2回ほどはがきが届いた。僕はこのはがきを受け取ると、いつもずいぶんと心が弾んだものだ。そしてすぐそのはがきを冷蔵庫に貼り付けた。内容はバーゲンの告知。レゴのバーゲン。レゴバーゲンである。

そのはがきが来る時期をある程度僕は知っていて、それで前々からお小遣いを貯めてはレゴを買った。そこで売られているレゴは何と定価の半額から7割引きが当たり前で、小学生の僕でもそれなりに手が出る位置にあったのだ。確か期間にして3日間のバーゲン。僕は買う気がない日も含め毎日行った。そこにいるだけで幸せで、ドキドキしてワクワクしてレゴレゴした。自転車で買いに行って、浮かれるあまり自転車の存在を忘れスキップで帰ることも何度もあった。実家の近くにそんな場所。そう考えるとレゴを好きになる環境は整っていたのかもしれない。

レゴを買って、家に帰ってひたすら遊ぶ。僕は自由に組み立てるブロックだけのものも大好きだったが、ちゃんと設定も作り方もあるお城や海賊船のシリーズが特に好きだった。あの箱を見ているだけでその世界に引きずりこまれそうな感じ。そしてあの出来上がったときの達成感。やっとのことで完成させた出来上がりを、急いで親に見せようとして階段ですっ転び、全て壊れて大泣きしたこともあった。あーレゴ。すげーんだぜ、幽霊の人形は暗いとこで光るんだぜ!

僕は心からレゴに夢中だった。朝から晩までレゴを触っていた。箸置きを四角いレゴブロックに変えて親に怒られ、レゴで枕をつくり首の筋を痛める日々。それほどに楽しかった。まぁすこしばかりその熱はいきすぎていたようだ。ある日カレーの鍋の中にレゴを混ぜ、気づかず食べた親父が泡のようなものを吹いたりした。てへ、僕ったら。

僕はレゴのことになるとかなり熱くなる。あの読みづらい説明書なんてもう最高!魔法使いの杖は暗いとこで光るんだぜ!

最近とある大型家電量販店のおもちゃ売り場を一人で見学していたときのこと。これといった目的もなくプラプラと売り場をさ迷っていた。へー最近のおもちゃってすごーい。何あれ、うわ、こっちも、なんて夢中になっていた。そして行き着いたのがレゴ売り場。いやがおうにも血が騒ぐ。でもダメ。ダメだ。バーゲンでもないのにレゴは買えない。あーあ、久しぶりにレゴやりたいなぁ。

するとよく見るとレゴのお試しコーナーのようなスペースがある。具体的には、子供用の小さい椅子の周りに小さい机があって、その机の真ん中が四角く窪み、そこにたくさんのレゴのブロックが入っている。要するに子供たちが遊べるためのスペースだ。

平日の昼間だからか周りには誰もいない。んー。こうなったら仕方がない。

遊んでみた。

やっぱり子供向けとあってかブロックの種類が少なくていけない。それでもなんとか底から底から材料をかき集め、頭に描いたそれを具現化していく。今まで培ったレゴ技術を発揮し、なんとか形になりかけてきた。レゴブロックには肌色がないため白で代用。白と黒のブロックが多くて助かった。目が少し難しいな。ここをずらして、と。もうすぐできる。僕の最も得意な絵。いつも描いている自画像。斉藤アナスイ。それがレゴによって3次元化される。昔からそうだけど、自分の手で作ったレゴというのはものすごい愛着がわく。それこそ自画自賛だけど、今手元にあるアナスイの顔はかわいくてしかたがない。

近くに子供がやってきた。なにやらレゴで遊びたそうだ。あれま。さすがに僕は子供のコーナーで遊んでいるけれど大人だ。ここにいちゃ子供が近寄れない。作業もいいところなので多少惜しいけど、当然ここは席を譲らなきゃいけません。どうぞどうぞ。これからのレゴを支えるのは君達だよ。まぁ残りの部分はこの子が帰った後、完成させればいいし。

そして7秒後僕の苦心の作品が、この子の手によって木っ端微塵に破壊された

あ、あなすいぃぃぃぃ!え、ちょ、ええええええええええ。な、何てことを。しかもこのガキときたら、僕のアナスイを壊した途端満足そうに立ち去りやがる。せめて遊べよ!ねぇ、せめて遊んでよ!レゴ!レゴ!レゴ!

一瞬この子のポケットにレゴを大量に詰めて、

万引きです!!!誰か来て!!!万引きでーーーーっす!!!

などど大騒ぎしてやろうとも考えたが、いくらなんでもそれは大人げないと判断。いや、もう十分大人げないけど。ね。知ってる。

さすがに夕方近くになり子供も増えて来たし気力もなくなったので、レゴ遊びはこれ以上の続行は不可能と考え、僕は店を後に。自分のアパートに着くと、隣の部屋の声が聞こえてくる。屋内なのにすごく寒い。

もしかしてこの家レゴなんじゃないかと、少し心配になった。

【目指せベスト10!皆様のご協力何卒よろしくお願いします。あーマジでレゴやりたい。あーマジで上行きたい。↓】

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2007年11月14日 (水)

ファミレス日記

Fami 13:00 入店 

24時間営業のファミリーレストラン。喫煙席に案内される。ファミレスに一人で入るのは、何回やっても慣れない。スパゲッティーとドリンクバーを注文。これから長いことお世話になります。

13:15 食事到着

エレガントかつ大胆に咀嚼。1杯目のドリンクは野菜ジュース。これおいしい。

13:30 食事終了

こっからが本番。カバンから荷物を取り出し、お勉強。今日は学校の課題をやるためにファミレスにこもるつもりなのだ。

15:00 おやつ

おやつの時間。パフェを頼む。飲み物は3杯目の野菜ジュース。

15:17 ギャル来店

隣の席にギャルの2人組みが座る。何か笑われるんじゃないかと、スプーンを持つ手が震えてパフェがうまく食べれない。

15:27 盗み聞き

隣のギャルの話に耳を傾ける。友達の友達がうざいらしい。僕が聞いた範囲ではそれほどうざいとは思えない。そんなことで嫌っちゃちょっとかわいそうだ。心が痛む。

16:10 ギャル帰宅

僕も作業に戻る。やっぱり4杯目も野菜ジュース。体にいいし。

16:30 お昼寝

ちょっと眠くなって来たので仮眠。おやすみなさい。

17:00 起床

自分の寝言で起きる。すごく恥ずかしい。おはようございます。さぁ続きを頑張ろう。

18:00 お邪魔

そろそろ店員の目がきになってきた。目が合った(睨まれた?)店員にウインクをしてみる。そろそろ追い出されるかもしれない。

18:20 ライバル出現

僕の斜め向かいの席に一人のおじさんが座っている。僕が来店する前から。この人もずいぶん長いこといることになる。勝手にライバル視。先に出たほうの負け。

18:25 ライバル視察

ライバルをチラチラと見てみるが、なにやらゲームボーイをやっているようだ。ただ彼の視線が画面を捕らえてないのがひたすら気になる。

18:30 注文

新たにフライドポテトを注文。これでまだいても大丈夫。

18:45 ゆとり教育

10分ほど前に来店した二組の家族連れのお客さんの子供が大暴れ。店内を駆け回る。親はそ知らぬ顔。非常にうるさい。

18:46 反撃

床に落ちたフライドポテトを拾い、くそがきの方向にデコピンで打ち込むとまさかの命中。すぐに下を向き、しらばっくれる。不思議そうな顔のクソガキ。ざまぁみろ。

19:12 灰皿交換

嫌な顔一つせず灰皿を交換してくれた。なんていい店なんだろう。これから通わせていただきます。野菜ジュースがおいしいお店として紹介します。6杯目の野菜ジュースもおいしい。

19:30 激痛

腰が驚くほど痛い。頑張れ僕。

19:50 事件

課題の近くで水の入ったコップをひっくりかえす。涙目。

19:51 事件結果&注文 

なんとか救出するものの、集中力が切れる。そろそろ夕飯にしよう。かなりお腹も空いたし、いいタイミングだろう。7杯目の野菜ジュース。

20:10 食事到着

ハンバーグ到着。でもわざと手をつけずに、タバコを吸う。こうやってじらすことにより、おいしそうなハンバーグをもっとおいしくいただこうという寸法。あーなんておいしそうなハンバーグ。食べたい。でも我慢。食べたい。まだ我慢。これだけ我慢して食べたらさぞ・・・!

20:11 事件

タバコの灰がハンバーグの上に落ちる。涙目。

20:30 食事終了

ふぃー、お腹いっぱい。少し休憩。本を読んだり、携帯を見たり、爪楊枝で遊んだりする。他のお客さんにあだ名をつけて遊ぶ。

21:00 最後の追い込み

野菜ジュースを2杯持ってくる。ヘッドホンをつけ、自分だけの世界に飛び込む。ここから本気。流す音楽は松田聖子。やっぱり聖子ちゃんが一番集中できる。

23:30 終了

あー限界。それなりに進んで大満足。荷物をしまう。

23:45 最後の一杯

野菜ジュースしか飲んでいないことに気づく。迷った末、最後にオレンジジュースを飲んでみる。野菜ジュースより全然おいしい。愕然とする。

23:50 会計

予想以上の出費。涙目。

23:50 帰宅

長居してしまい申し訳ございません。お邪魔しました。ライバルは動く気配なし。僕の負け。 

総括

ライバルは一体いつからいて、いつ帰るのだろう。明日行っても、何も変わらずまだあの席にライバルがいたら、そのときはどんなに空いてても相席させてもらおうと思う。

【○○:○○ ランクリ↓】

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2007年11月13日 (火)

僕 対 ハト神

Boku_vs2 高校時代、学校のすぐそばにちょっと広めの公園があった。僕はいつも通学の途中にその公園の中を横切って学校に通っていた。その公園には、朝なのにたくさんの人がいた。犬の散歩をする人、体操をするご老人、ブランコに乗る子供、ブランコに乗る力士、など様々な人がいて、それでも静かで穏やかな公園だった。

その公園に、いつもハトに餌を与えているおじいさんがいた。そのおじいさんの周りにはたくさんのハトがいた。手でパンのようなものをちぎって投げるおじいさん。それに群がるハト。遠くから見れば、まぁまぁ絵になる光景である。天気のいい日なんかは、それこそ。

ところが、このハトである。なぜか僕を見つけるといっせいに襲い掛かってくるのだ。あきらかにわざととしか思えない低空飛行で、僕めがけて飛んでくる。おじいさんがそこら辺のハトを集合させているため、えらい数である。接触こそしないものの、その恐怖は僕に頭を抱えてしゃがませるには十分だった。ハタから見れば相当間抜けな姿であったろう。

一体何故僕だけがこんな目に。毎朝通ってみても、ハトに襲われているのはおそらく僕だけだった。どう見ても僕より弱そうな老人子供もいる。どう見ても僕より悪そうなおじさんだっている。それなのに何故一般高校生である僕だけが狙われるのだろう。まさかおじいさんが命令しているのか?いや、でも何か不満をかうようなことをした覚えはない。じゃあ単純にハトに恨まれているのか?でも僕はハトを脅かしたりしない。いくら僕だって、おじいさんが投げたパンを横取りしたりはしない。もしかしてハトになめられているのか?

だったらその公園を通らなければいい、とお考えの人もいるだろう。でも僕はその公園に毎朝自転車を止めていたのだ。校則では禁止されていた自転車通学。学校側にバレなくて、かつ、近いのがこの公園だった。だからルートから公園を外すことはできなかったのだ。

ある晩僕はハトの夢を見た。何羽ものハトに連れ去られ、火山の割れ目に落とされる夢。僕ははっと目を覚ました。本来の起床予定時刻まではまだかなりある。少し、呼吸が乱れていた。朝だけではなく、夜の生活をも乱すとは。このままじゃダメだ。ハトの野郎、もう許さない。

次の日の朝、僕はまたハトに襲われた。ふん、見てろよ。調子にのってられるのも今のうちだ。僕はカバンを盾にしゃがみながらそう思う。朝は時間がないから、勝負は放課後。昨日の夜、無理やり起こされた頭でそう決めたのだ。

そしていざ放課後の公園である。ここのハトは何故か朝だけ襲ってきて、放課後、つまり夕方近くは大人しいのだ。僕は今までの経験からそれを知っていた。さぁ反撃の時間だ。イッツショータイム!僕はハトを追い掛け回す。僕が近づくと逃げ惑うハトたち。いつもとはまるで逆な戦況である。僕は思う存分、今までのうっぷんを晴らすかのように乱舞した。ほらほらポッポども、これが人間様の実力なんだよぅ!ワッショイショーイ!

コ、コラーーーーーー!

急なその怒声を聞いていっせいにハトが飛び立った。僕も少しだけ跳んだ。な、なに?一体何が起こって何が怒った?声の主のほうを向く。視線の先には見覚えのある人が立っていた。ハ、ハトのおじいさん。

「なんでハトいじめるんじゃ!」

やばい、まずいところを見られた。いつもならおじいさんはこの時間いないはずなのに。これは予想外だ。どうする。言い訳?浮かばない。とりあえずこの場をしのがなきゃ。いや、あの、ですね・・・その・・・。

「なんでハトいじめるんじゃ!」

なーんでハトいじめるんじゃ!

な・ん・で!NA☆N☆DE!!

なんでハトいじめるんじゃー!!!

だめだ、この人はハトに夢中だ。きっと結束の固い仲間なのだろう。ハト神様なのだろう。『ジジイfeatハト』の新曲で『駆けろ大空』、なのだろう。何を言っても聞いてくれそうにない。最初にいじめられたのは僕のほうなのに。そんなこと言ったってどうせきっと相手にしてくれるわけがない。おじいさんにとってはハトが善で、僕は悪なのだ。別にそんなおじいさんを責めるつもりはないけれど、今だけはハトに連れ去られて火山の割れ目に落ちてくれないだろうか。こ、恐いよぅ。帰りたいよぅ。

そこから小一時間の説教が始まる。僕はその間、まるでハトのようにずっと首を前後に動かしていた。

それからというもの、僕はハトに強くでられなくなり、ハトの猛攻を卒業までじっと耐える生活を強いることになる。だっていつもおじいさんが目を光らせているのだ。大袈裟じゃなく、本当に恐かった。ハトも。おじいさんも。

卒業以来あの公園には行っていない。あのおじいさんはまだ健在なのだろうか?できればそうであって欲しい。できれば僕の後輩もいじめていて欲しい。

あの雲の上へ昇るには、まだちと早すぎるだろう。

ハトだってきっとそう思ってる。その証拠にほら、ハトはおじいさんがこっちに来ないようにっていつも自分たちから会いに来るんじゃない?

【うちのブログは豆鉄砲(意味不明)↓】

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2007年11月12日 (月)

僕 対 国家権力

Boku_vs 白い息を零しながら、久しぶりの自転車を漕ぐ。家まではあと少し。帰ったらお風呂に入って寝てしまおう。雨上がりの道。無灯火疾走。なんだか少し気持ちがよかった。だから夜は嫌いじゃない。

前方から明るすぎるほどのライトを携えて、2台の白の自転車が来た。見覚えのあるフォルム。少しだけ心が乱れる。警察だ。止められたら面倒だな。別に悪い事はしてないけれど、だとしても時間は失うことになる。どうするか。曲がり角はない。来た道を引き返す?賢いとは思えない。逃げられない。

一人の警察が僕に向けて懐中電灯を、あからさまに振った。あーあ、やっぱりね。こうなるよね。「ちょっと止まってもらえるー?」一瞬、音楽を聴いているフリをして無視する、という選択肢も頭に浮かんだが、それはきっと正解ではない。はいはい。わかりましたよ。僕は仕方なく自転車を道の路肩に止めた。

「・・・なんで止まったの?」

「・・・え?いや、だってお巡りさんが止まれって・・・」

おやおや。いきなりおかしなことを言う人だ。こっちは言われた通りにしたのに。意外と素直だったのに。まさか止まったことを怪しまれるとは。いつのまに正直者がここまでバカを見る時代になったのだろう。じゃあもし止まらなかったらどうした。追ってきただろう。止まるまで。いつまでも。

「ちょっと防犯登録調べさせてもらうねー」

「あ、はい、どうぞどうぞ」

別に盗んだ自転車ではないので、拒否をする必要もない。さっさと容疑を晴らして帰りたい。名前を聞かれ正直に答える僕。それを受けて、なにやら無線でわけのわからぬ暗号を言い合う警察たち。寒い。

「あ、うん、大丈夫そうだね。ライトつけてね」

「あ、はい、わかりました。それじゃ」

さぁ、とっとと帰ろう。予期せぬ出来事だったけど、まぁいい。僕は帰って寝るんだい。再び自転車に跨ろうとする僕を止めたのは、またしても警察官の一言だった。

「あ、ちょっといいかな?最近この辺も物騒でさ。荷物調べさせてもらえる?」

「え・・・?」

いや、マジで。荷物を調べる?まぁまぁわかる。この辺が物騒なのが本当だとして。その元凶を捕まえたい。でも見るからに怪しいやつでもいない限りは、こうやって一般人を数打つしかない。理論はわかる。でも・・・マジで?

荷物を見られるのか。もちろんいい気はしない。カバンの中何入ってたかしら。あーそうか。別に警察に咎められるような物は持ち歩いていないけど、でも、なぁ。うーん。拒否したらどうなる?逆に怪しまれるのかな。わからないけど。たぶんもっと面倒なことになりそうだ。仕方ない。早く帰りたいし。僕は渋々承諾することにした。

「あ、別にいいですけど」

「ごめんね、みんなに協力してもらってるんだけどさ」

そう言って僕のカバンを懐中電灯で照らし、手を入れる警察。こんなことならちゃんと中身を整理しておくべきだった。誰かに改めてカバンの中を見られるなんて、思わなかったから。

まずは本が出てくる。3冊ほど。論文に使うため図書館で借りたのが2冊と、趣味で持っているのが1冊。

「お兄さん大学生?」

「あ、はい、そうです」

警察は聞いといて、それほど興味もなさそうだ。僕に出した本を受け取った。ごめんなさいね。確かに僕のカバンの中は本が幅を取りすぎて、一旦出さないと中の物が取り出せない仕様になっているのだ。まだまだ、僕だけが徒労だとわかりきっている警察のその作業は続く。財布に携帯に眼鏡にワックス。次々と僕の持ち物が照らされ、そして闇に戻されていく。

「ん、これは?」

「あ、フレグランススプレーです」

いい匂いの出るフレグランススプレー。僕のカバンを調べているほうではない、もう一人の少し若めの警察が言った。

「これ俺も使ってるよ!でも、これよくないよね。全然モテないもん」

(そ、それはスプレーのせいじゃないんじゃ・・・)

まだ僕のカバンの中身の検証は続く。そして、とある兵器を手に取った警察が明らかに僕を疑った。僕のカバンの中でスタンバイする、数多くの品の中で、これが一番見つかって欲しくなかった。ただ、全てのものを検証するというのなら、この瞬間は避けれない。

「これは・・・?」

「いや、あの・・・」

「何?」

「・・・ヘ、ヘアーアイロンです」

「あー!」

だから嫌だったんだ。コテならまだしも。コテならまだしも。警察の目が痛い。どうせ小ばかにしているのだろう。

「へーヘアーアイロンかぁ。なんでこんなの持ち歩いてんの?」

「いや、雨振ると髪がクリンクリンになっちゃうんで・・・」(こんなこと言いたくない・・・)

「へーそうなんだ。大変だねー。こんなの持ち歩いてる人初めてだよ」

「あ、そうなんですか・・・」」(恥ずかしい。なぜこんな目に・・・)

「すごいねー!ヘアーアイロンかー!へー!」

「はぁ・・・」(もう勘弁してくれ・・・)

弁解させてもらえるなら、僕だっていつもヘアーアイロンを持ち歩いているわけではないのだ。当分家に帰れなそうだったので、たまたまカバンに入れておいただけのことだ。だからどうかそんな好奇な目で僕を見ないでくれ。どうやら悪い事をしているわけじゃなくても、後悔という概念は発生するみたいだ。

さらにさらに僕の荷物は強すぎる光に晒される。別に何もないですよ。その一言は何の効力も持たない。次に警察が目をつけたのはケースに入ったヘアピンの束だった。

「これは?」

「いや、ヘアピンです」(嫌な予感がする・・・)

「へーこんなにたくさん」

「いや、雨振ると髪のボリュームがえらいことになるんで・・・」(やっぱりまたこの話か・・・)

「へー大変だねー」

「はぁ・・・」(どーせお前らには俺の気持ちなんかわかんねーよ!)

ワックス。ヘアアイロン。ヘアピン。それらが一つのカバンの中から出てきた。それらをデータとして取り入れた警察は僕に聞いた。さっき大学生と答えたばかりなのに。まぁでもこれだけの物が出てきてしまったら、警察がそう考えてもおかしくはない。

「あ、お兄さん、もしかして美容師!?」

僕は答えた。

「いえ、天然パーマです

全ての荷物を調べ上げられ、多くの辱めを受けて、ようやく解放された僕は再び夜の街を駆け出した。ライトはやはりつけていない。壊れているのだ。

さっきと違うのはただ一つだけ。

取調べのうっぷんにより、掻き毟られて、本来の姿に戻った僕の髪だけ。

【ブログはブログでクリンクリン↓】

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2007年11月 9日 (金)

アナスイ流モテすぎて涙が出ちゃうテクニック

Motemote モテたいなぁって思って。そのためにできることを考えて。そして苦心に苦心を重ねようやく編み出したのが、これから紹介する「アナスイ流モテすぎて涙が出ちゃうテクニック」です。普段こんなことばっかり考えています。ごめんなさい。

やっぱり女の子は優しい男に弱いように思います。優しさはモテにおいて重要な鍵を握っていると考えて間違いないでしょう。そしてその優しさを用いたケース。「待った?」という質問に対し、「俺も今来たとこ」という返し。これは、ドラマや漫画でもよく見る優しさアピールです。でもこれには大きな落とし穴があります。「本当は待ってたのに」という前提がないと、女の子は優しさを感じないのです。だからまずは、本当は待ってたこと、を伝えなければいけない。いやらしい話ですけどね。じゃあ本当に待てばいいか。それはそうです。でも男だって準備には時間がかかってしまうものです。髪型のセットなり、服のチョイスなり。そう考えると難しいですよね。時間がなくてもできる優しさアピール。そんな都合のいいものがあるかって?それがあるんです。そんな優しさモテテクニックがこれ。

~優しさアピール編~ 難易度★

①待ち合わせ時間の10分ほど前に着く。

②その辺に落ちているタバコの吸殻を拾う。

③拾った吸殻を自分の足元に撒き散らす。

④自分のタバコに火をつける。

⑤待ち合わせ時間になり、女の子がやって来る。

⑥女の子が言う。「ごめんね、待った?」

⑦自分のタバコを消し、足元に捨てる。

⑧そして満面の笑み。「全然待ってないよ!俺も今来たとこ!」

⑩彼女は思う。「え、だって足元にあんなに吸殻あるし・・・。本当はすっごい待っててくれたんだ。でもそれを言わないなんて・・・なんて優しい人!」

⑪ゴールイン

どうでしょう。この完璧な作戦。隙はほとんどないように思います。ちなみに吸殻は持って帰ると尚優しい男になれます。ただ路上喫煙禁止区域では使えないので注意して下さい。もし女の子に吸殻を拾っているところを見られたら、「地球がかわいそうで・・・」とかなんとか言ってみてもいいかも。ただ全部見られていたら、それは確かに愚かです。

女の子は優しいだけじゃ退屈してしまうのも現実です。ここで少し悪さをアピールしておきましょう。男らしさというか、ちょっとした危うさというか。女の子は意外とそういうところに弱いはずです。「俺は昔ワルだった」。そんな隠れた一面にちょっとドキッとしてしまうはずです。それをうまく伝えましょう。ただ、今からあげる例は、優しさアピールとは違って決まった回答がないものです。以下に挙げる僕の例を参考にして応用していただけると幸いです。先の待ち合わせと違って今回の会話は水物ですので、最初はそんなにうまくは行かないと思いますが、何度も練習して適応できるようにしてください。まず僕は前歯が差し歯なのでそれを利用します。みなさんは「ヒザに擦り傷がある」、「首に噛まれたあとがある」など、自分なりに見つけてみてください。

~悪さアピール編~ 難易度★★★

①ちょっとわざとらしく、かつ、さりげなく前歯を見せる。

②女の子「え?何してんの?(笑)」

③僕「いや、この時期になると疼くんだよね」

④女の子「歯?」

⑤僕「うん、俺前歯差し歯なんだ」

⑥女の子「え?なんかあったの」

⑦僕「・・・過去に・・・ちょっとね・・・」(軽くうつむく)

⑧女の子「え?ケンカとか?」

⑨僕「昔の俺は・・・(溜めて溜めて)・・・まぁいっか!飲もう!」

⑩女の子は思う。「・・・きっと何か言えない過去があるのね。なんだかドキドキしちゃう!セ、セクシー!!!」

⑪ゴールイン

どうでしょう。この完璧なアピール。自分でふらせといて自分で打ち切るのがポイントです。こうすることによってさりげなさが生まれます。どう見ても昔悪かったように見えるでしょう。どう見てもケンカで歯を折られたように見えるでしょう。それでも決して嘘はついていません。ちなみに僕が差し歯なのは、空腹に耐えかねて、Tシャツの襟をかじり続けてたら前歯がかけたからです。せっかく食費削って節約したのに、治療費でマイナスになりましたからね。おかしな話です。

いくつかテクニックを挙げてきましたが、是非みなさんも一度お試しになってください。ただしこちらとしては責任を負わないことを明記しておきます。

ちなみに成功例が未だに一度もないのがアナスイ流の恐いところです。

【本当に一度もないから恐い↓】

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2007年11月 8日 (木)

懺悔します~一人暮らし編~

Zange1 一人暮らしを懺悔します。

学校さぼって家で寝てるのは僕です。ごめんなさい。

ペットボトルをどうしても溜めてしまうのは僕です。ごめんなさい。

自炊するからと言って、買い揃えた道具を一度も使わなくてごめんなさい。

居留守ばっかりつかってごめんなさい。

たまに出ると宗教勧誘ばかりです。ごめんなさい。

独り言ばっかり言ってごめんなさい。

未だに郵便受けの開け方がわかりません。ごめんなさい。

アニメのDVDを見ながらパソコンをいじってます。ごめんなさい。

漫画の数が尋常じゃありません。ごめんなさい。

「ブログが書けない、ブログが書けない」と2分に1回言ってごめんなさい。

ヤフオクでサイズを見ずに電気スタンドを買ったら、大きすぎてドアを破壊しそうになったのは僕です。ごめんなさい。

ほんのたまに電気止められてごめんなさい。

歯ブラシが2本並んでるのは、僕の小さな見栄です。ごめんなさい。

掃除機を立てて、一時的に帽子をかけたりマフラーを巻いたりしてたら、いつのまにか取り出せなくなってしまいました。ごめんなさい。

たまに壁にコップを当てて、隣の部屋の音を聞いてます。ごめんなさい。

唯一あるハサミがすきバサミという不便さです。ごめんなさい。

薄汚れたかものはしのぬいぐるみがあります。ごめんなさい。

天井にガムテープがくっついています。どうやってくっついたのかもどうやって取ったらいいのかもわかりません。ごめんなさい。

深夜に踊ってごめんなさい。

うちにあるライターが臭いのは、酔っ払ってお刺身と間違えて醤油をかけたからです。ごめんなさい。

6月のカレンダーがかかっています。ごめんなさい。

部屋中にワラが落ちてます。ごめんなさい。

家にある全てのリモコンの電気が切れてています。ごめんなさい。

CDのケースと中身が全部違います。ごめんなさい。

拾ってきたものがあちこちにあってごめんなさい。

よく寝るのに、育たなくてごめんなさい。

この年になって人形で遊んでいます。ごめんなさい。

画鋲で開いた穴に爪楊枝を刺して遊んでいます。ごめんなさい。

うちにある消しゴムが臭いのは、酔っ払ってお刺身と間違えて醤油をかけたからです。ごめんなさい。

一本しかないハンガーに持っている服を次々とかけたら、面白い形にひしゃげました。ごめんなさい。

食パンを素で食べています。ごめんなさい。

ウーロン茶を水で薄めて飲んでいます。ごめんなさい。

たまにリンスで頭を洗ってしまいます。ごめんなさい。

たまに電気を消して、懐中電灯を持って一人で探検ごっこをやっています。ごめんなさい。

そんなことするわりに夜中ビクビクしてごめんなさい。

だから怖い話で眠れなくなります。ごめんなさい。

『ターザン』とかダンベルとか、ちょっとムキムキになろうとしてた残り香があってごめんなさい。

用法用量を守らずに、トローチいっぱい食べてごめんなさい。

アンケートで名前を面白がって「ぺヤング」にしたら、我が家に「ぺヤング様宛」のダイレクトメールが届きました。ごめんなさい。

カーテンにつかまって立とうとしたら、ぶっ壊れて全部落っこちてきました。ごめんなさい。

なぜかテレビ朝日が映りません。ごめんなさい。

布団が来るまでは段ボールで寝てました。ごめんなさい。

ごめんなさい。ごめんなさい。

一人暮らししてごめんなさい。

【こんなブログで本当にごめんなさい↓】

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2007年11月 6日 (火)

カニ

Kani 小さい頃、実家にカニが届いたことがあった。誰が何のきっかけで送ってくれたのかは覚えていない。それがタラバガニだったのか、毛ガニだったのか、何ガニだったのかも覚えていない。でもカニはうちに送られてきた。そのカニはまだ生きていた。

うちのババァが無類のカニ好きだった。小食で偏食なババァだけど、カニを食べている時はいつもより幸せそうな食卓だった。誰かがそれを知ってて送ってきてくれたのかも知れないし、そうでないのかも知れない。我が家に届いたカニ。だからその日のババァはご機嫌だった。夕飯にカニが食べれるから。カニババァ。

でも僕は、カニを食べる気にはなれなかった。だってそのカニはまだ生きていたのだ。まだ生があったのだ。だから、僕はババァに直訴した。

このカニ僕が育てる

すんなりとババァはそれを面白がり、僕とカニの奇妙な共同生活が始まった。

洗面台に水を一杯に張り、その中にカニを優しく放り込んだ。カニが水の中で生きていることを幼き日の僕は知っていた。水の中でゆっくりと動くカニを僕は傍でずっと見ていた。片時も離れずに。トイレも我慢して。それに飽きた記憶はない。名前はつけなかったけれど、それは僕にとって初めてのペットとして十分だった。もしかしたら弟のように思っていたのかも。すごくかわいくて、すごく愛しくて、すごく8本足だった。

でも時間と共にカニは動かなくなった。ゆっくりが、もっとゆっくりになり、止まった。カニが水道水の中で生きられないことを幼き日の僕は知らなかった。カニは死んだ。

僕は大泣きした。

すごくたくさん泣いた。何時間も何時間も泣いた。カニが死んじゃった。涙は止め処なく溢れてきた。その流れ出るしょっぱい液体は、まるで海水のよう。かなり昔の話だけど、今でもはっきり覚えている。それほどに泣いたのだ。それほどな事件だったのだ。

ババァが頭を撫でてくれた。優しいねって。優しくなんかない。だって僕はカニを死なせてしまった。カニを死なせたのは僕だ。カニがなんで死んだのかはわからなかったけど、責任感と喪失感は、小さい体に支えきれないほど圧し掛かってきた。

夕飯にカニが出た。元々食べられるためにうちに来てくれたわけだし、美味しくいただくのが一番カニのためになるに決まっている。それは人間のエゴだけれど、そういうものだ。でも僕は食べる気にならなかった。みんなが豪勢にカニをほお張る中、一人卵かけご飯を食べた。別にカニを食べる皆を悪だとは思わなかった。カニは家族の血となり肉となった。

夕飯が終わり、カニは空になり殻になった。僕はババァに頼んでカニのハサミだけをもらった。形見って言うには変だったけど、まだ愛はあったし。形として残しておきたかったのだ。

それを手に握って眠った。泣きつかれたのもあったし、布団に入るとすぐ眠くなった。少し寂しくていつもよりババァの近くに寄った。手にはハサミがあったから、ババァの手は握れなかったけど、それ以外はちゃんと甘えた。そんな僕を見て、ババァはまた頭を撫でてくれた。カニを育てた僕と、僕を育てたババァと、ババァを育てたカニと。一つの布団の中で。まるでじゃんけん。カニはもちろんチョキで、カニに目がないババァはパー。ババァに弱い僕はグー。ババァは僕が眠るまで、頭を撫で続けてくれた。たぶんだけど。確かそうだった気がする。もっと小さなチョキを包んだ、小さなグーを撫でた、大きく優しいパー。遠い記憶の、消えないお話。布団の中はあいこだったから、誰もが許されてすごく暖かかった。

朝起きたらカニのハサミがババァの頭に刺さっていた

僕は大笑いした。

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2007年11月 2日 (金)

吐き出すペンと受け取る紙と

Sennsei うちの大学の、僕の通う学科の特色からか、授業中に文章を書かされることが多い。ブログなんてやっている僕だ、もちろん書くのは嫌いじゃない。毎回作文を書かされて、それを評価されて。僕は去年そんな授業の単位をとっていた。

うちの大学に、僕が恩師と崇める人がいる。前記したそんな授業で、僕の書いた文章を評価してくれた人。君の文章は面白いって何度も何度も言ってくれて。僕に自信をくれた人。元々物書きだった先生。僕はその先生を慕った。認めた。許した。中年の男性だけれど、「一緒に住もう」って言われたら、頬を赤らめて頷いてしまう可能性も否定できなかった。

今でも交流はある。僕が大学の喫煙所で、さくらんぼの「んぼ」って何だろうと不毛なことを考えていると、その先生が僕を見つけて話かけてくれる。その度に僕は嬉しくなった。世間話。他愛もない話。文章の話。相談に乗ってもらったこともある。僕は先生と話している時間が大好きだった。昨日も、そんな光景が喫煙所にあった。

「去年の先生の授業すごく楽しかったです!」

「あはは、斉藤くんの文章はよかったねぇ」

「あ、ありがとうございます!今年はどうですか?」

「あー今年はね、うん、去年よりうまい子が多いかな」

「え!?・・・そう、なんです、か・・・」

笑顔でそう語る先生。僕の中で、何かに火がついた。

「・・・先生、僕も久しぶりに授業に出させてもらってもいいですか?」

大学四年になって、ほとんど授業がない僕には時間的余裕があった。出ようと思えばいつだって、その時間その教室で授業を受けることはできた。

はっきり言って嫉妬だった。先生が僕以外の文章を褒めるのが許せなかった。僕のほうがいい文章を書けるはずだ。毎日の様にブログ界の荒波に揉まれている僕が、普通の大学生に負ける?そんなことはあってはいけない。

こんなことを言うと僕が自信過剰のようにうつるかもしれない。でも例えばどうだろう。甲子園を目指し3年間野球に打ちこんだものが、まったくの素人に三振にとられたとしたら。例えばどうだろう。ひたすらにやりこんだゲームで、あっさり素人に負けたとしたら。悔しいだろう。それはもう。

だから僕が文章に捧げた時間を振り返るならば、そんなことは許されない。文章はいつも僕を守ってくれた。僕はそんな文章を裏切れない。僕には時に文章しかないこともあった。それに、何て言っても先生だから。この人の一言は僕にとって特別だから。他の授業なら、確実に僕はこんなに熱くなっていなかっただろう。この先生じゃなければ。そうだ、もう一度ちゃんと見てもらおう。そして本当にできた文章を書くのは誰なのかを・・・。僕は灰皿に、タバコを強く押し当てた。

授業開始より少し遅れてドアを開けた。一年ぶりのこの授業。今僕が賭しているのは単位なんて数字じゃない。それよりもっと大事なもの。去年より人数は多いが、懐かしい雰囲気が僕をちょっと嬉しくさせる。先生は驚いた顔をした。「本当に来たんだ!?」。そう思っているのは明らかだった。先生、僕、本当に来たよ。僕は先生にニヤリと笑い返す。

周りの生徒は僕にまったく興味示さない。ここにいるほとんどが僕の後輩にあたる。僕のことなど知らないのだろう。もちろん僕と先生のこととも。絶対に負けられない。僕は一番後ろの席に座った。隣は誰もいない。

先生が話している。誰も聞いてないのも相変わらずだった。ははん、こんなありがたい講義を聞き逃すなんて。君達は何をしに大学に来ているんだい?僕は小さく笑う。それでも教室内は静かだった。話も聞かずに一体何をやっているんだろう。みんな一心不乱にペンを動かしている。え?何やってんの?僕は前の席を覗き込む。原稿用紙にのせられた文字。

し、しまった!出遅れた!

もう勝負は始まっている。やばい。ちきしょう、なんて卑怯なやつらなんだ!そんなのフライングじゃないか!と、とりあえず落ち着け。大丈夫、僕の書くスピードはそれなりに速い。追いつける。追い越せる。

・・・え?原稿用紙?そうだ。そうだった。この授業は原稿用紙持参なんだ。持ってる?持ってるわけがない。どうしよう、周りに頼み込んで3枚ほどもらうか?だめだ、こいつらは敵だ。ライバルだ。そんなやつらには頼れない。先生に言う?それもダメだ、履修もしてない僕が迷惑をかけるわけにはいかない。先生の授業を乱しちゃいけない。

そ、そうだ!ルーズリーフ!文字数は計れないけど、それでもペンと紙があれば文章は書ける!ところが、いくらカバンの中を漁ってもルーズリーフは出てこない。な、なんで!?

・・・思い出した。昨日家で使ったんだ。卒業論文の下書きに。しまった。そのまま置いてきたんだ。なんてことだ。卒業論文をちゃんとやってたならまだしも、途中で飽きて「私がおばさんになっても」などという訳のわからぬタイトルの詩を書き連ねた、昨日の愚行を激しく後悔する。

な、なんでもいい。紙。とにかく紙を出せ。失礼すぎるけど、他の授業で使ったプリントでもいい。紙とペンがあれば文章は書けるから。そしてようやく僕のカバンから唯一の紙が発見された。

ティッシュ

・・・いやいや。それはいくらなんでも。それは悪ふざけが過ぎる。

・・・。

・・・紙とペンがあれば文章はかける?

一応やってみた。ところがシャーペンじゃ話にならない。薄いし、濃く書こうとすると破けてしまう。じゃあここはマジックか。試してみると、これがまたなかなかうまくいく。これだ。

机にうつらないように何枚も重ねて。まっすぐに伸ばして。書ける。

紙とペンがあれば文章は書ける。

集中する。訂正できないから、間違えないように丁寧に。それでも迅速に。僕の言葉を紡ぐ。久しぶりに書く先生への文章。なんて言われるかな。「前よりうまくなったね」って言って欲しい。文字列は次々と頭の中に浮かんだ。手が止まらない。1枚、2枚。書きあがったティッシュが増えていく。

終わった。それなりの手ごたえはあった。読み返しても特に問題はない。ティッシュであること以外は。書き終わると僕は少し冷静になった。

いやいや、落ち着け僕。一体何をやってるんだ。バカかよ。どう考えてもこんなの許されるわけがない。なんだティッシュって。おかしいだろ。僕が先生ならきっと激怒する。いきなり押しかけて来られてティッシュを渡されるなんて。そんなのひどすぎる。だめだ。諦めてもう大人しく帰ろう。

この授業は提出したものから先に帰っていいシステムになっていた。もう教室に残っているもののほうが少ない。

僕は先生に小さく頭を下げた。お疲れ様でした。先生はまた不思議そうな顔をした。でもそんな先生の顔を見たら、思いが一気にこみ上げてきた。

読んで欲しい。すごく。読んで欲しい。すごく。読んで欲しい。

もしかして。先生なら受け取ってくれるんじゃないか。先生なら。この人なら。

出してみるか。一応。受け取ってくれなくても。せっかく書いたんだから。

踏み出せ。迷うな。そうだ。あと一歩。

先生に褒めて欲しいんだろう?

「あ、あの・・・これ・・・」

それを見て先生はにっこり笑った。

出て行け

僕もにっこり笑った。

ですよね

僕は教室を後にした。

そのティッシュで涙を拭いた僕の目の周りは真っ黒に染まった。

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2007年11月 1日 (木)

花香る

Kaoru 楽しいはずの昼食の時間が一気に表情を変えた。「きゃっ」。近くの女子生徒の叫び声。「ガシャリ」。陶器と床のぶつかる鈍い音。僕は天井を見上げていた。あ、倒れたんだな。そんな状況にもかかわらず自分でも驚くほどに冷静だった。状況はすぐにわかった。胸のあたりが熱い。そっと指先で触れている。ドス黒く淀んだ液体が僕の制服に染みを作っていた。恐る恐るその液体を舐めてみる。うん、まずまずの醤油ベース。簡単に言うと僕はラーメンのドンブリを持ったまま後ろにひっくり返ったのだ。スープで作った制服の茶色い染み。水で洗うと染みは薄くなるものの、いや、色は薄くはなったのだがどんどん範囲が広がっていくと言ったほうが遥かに真実に近い。そして匂いがどうやっても落ちない。相当香ばしい。チャイムが鳴る。仕方がない。結局着替えも持っていない僕は、そのまま午後の授業に出ることにした。この程度の匂いなら。まぁ狭くない教室だしなんとかなるはずだ。ところが。

「なんかラーメン臭くない?」。女子生徒の言葉が聞こえる聞こえる。いやはや全然ごまかせませんでした。遠慮なしにぷんぷん香る。やばいな。僕はひたすらにうつむく。匂いの発信源は明らかに僕だ。それにこの染み。みんな白のYシャツに身を包むなかただ一人、黄色をモチーフとした菜の花のような色のシャツを着ている僕。頼む、誰か僕を連れ去ってくれ。ここではないどこかへ。一人、また一人と視線の重圧が増えていく。もうダメだ。このクラスで今、僕を見ていないのは僕だけだ。

・・・う、うああああああああああ!!!

その日から僕のあだ名はしばらく「中華一番」になった。

これがかの有名な「椅子がなくてボールに座ってラーメン食べてたから、バスケットの神様が怒ってバチを与えたんだよきっと事件」の全容である。本当に悲しい事件だった。特に当時僕は高校生だったから。

高校生というのは、本当に色んなことを気にする。僕は特にそうだった。毎朝鏡で髪型を整え、ズボンを腰で穿く。カバンに何やらジャラジャラつけたりする。そうしないといけない気がした。そしてそれがかっこいいと本気で思った。先の例ではないけれど、匂いなんかは特にそうだ。口臭を気にして毎朝鬼のように歯を磨く。磨きすぎて歯先が球になるほど磨く。

そして月日は流れ僕は大学生になる。高校時代の考えを引きずったまま。内面は一つも研磨せずに。大学1年になると僕は香水というものに出会った。オシャレ発見。これ、これだよ。僕が求めていたものは。これさえあれば・・・。何のことはない。ただモテたかったのだ。ずっとただそれだけだったのだ。モテにおいてきっと匂いは大事。いい匂いのする花には、ミツバチも寄ってくるものだ。

初めて買った香水はライオンハートというやつだった(最近でもちょいちょい使うが)。量販店の店先で、数多くの香水たちの匂いを一通り嗅いで見るも、その違いなど僕にはわからない。全部同じに感じた。あえてその中でライオンハートにしたのは、単純に名前がかっこよく思えたからだ。フラミンゴのスネ肉のような僕だって、たまには無理してもいいじゃない。

しかし買ってはみたものの、どれだけ吹きかければいいのかがわからない。恐る恐る、とりあえず一吹きだけかける。外に出る。ドキドキした。しかし誰も振り向かない。おかしい。ただ、今自分は香水をつけているという事実は、それだけで僕を少し強くさせた。香水がきつ過ぎるのも、逆に人を不愉快にさせる。僕もそれを知っていたから。爽やかに香る一吹き。きっとこれでいいんだ。そう思うことにした。

半年しても香水は全然減らなかった。外出するときは毎回一吹きしてたのに。いくらなんでもおかしい。こんなに長持ちしたら香水業界が危ない。だからその日は三吹きにしてみた。日常プラスニ吹き。挑戦だ。するとなんと、ようやく初めて気づいてくれる人がいた。それは毎日のように会ってる大学の友達だった。

「へーお前でも香水とかつけることあるんだ」

う、うん。たまにね。少し涙ぐみながら答える僕。あぁ半年感の苦労はどこへ。香水のつけ忘れに気づいて、駅から家までわざわざ戻ったこともあったのに。この半年間匂いを撒き散らそうといつもより腕をバタバタしてたのに。血と涙の一吹きだったのに・・・。

匂いって印象に残ると思う。それは「あの人サバ臭いよねー」とかそういうレベルの話じゃなくて。例えば好きな子が使う香水と同じ匂いを街で感じ、ふと振り返ってしまうだとか。誰もが自分の部屋に自分の匂いを持ってて、自分の服に自分の匂いを持ってて。香水をつけなくてもそれぞれの、それはもう空気に近い匂いがあって。それはものすごく心地のいい匂いなのかもしれないし、ものすごく胸を締め付けてしまうような切ない匂いなのかもしれないし。いろんな意味で無臭に感じてしまうかもしれない。

誰もがそれぞれに匂いを持っていて。

誰もがそれぞれに、例え無意識だとしても特別に感じる匂いを持っている。

あの時ラーメンのスープの匂いは結局ずっととれなかった。

ラーメンのスープの匂いを嗅ぐと、あの時のことを思い出す。

ずっと、ずっと、今だってそう。

きっと人の匂いを一番近く感じるのは抱きしめたとき。だから一番インプットされやすいのも抱きしめた人の匂い。それをさらに繰り返したら。何度も何度も繰り返すから。きっと忘れられないのは好きな人の匂い。もっと自然に言うなら「恋人の匂い」が一番近い、と思う。

誰かの匂いも、きっとそう簡単にとれるもんじゃない。当時は最高にいい匂いだったそれも。

その匂いを嗅ぐと、きっとその時のことを思い出す。思い出してしまう。今は残酷すぎる匂いのそれも。

その匂いは十分涙で薄めたつもりだったのに。

僕はあれから香水を変えた。ライオンハートの僕ではなくなった。それは過去との決別だとか、自分を変えたいだとかそんな大層なもんじゃない。予算内で買えるのがそれしかなかっただけの話だ。

でもこんな安い香水を、誰かにとって最良の匂いにできたらいい。たまにはかっこつけてもいい。

今のところはちっさい虫とかしか寄ってこない。・・・いや、そりゃそうなんだけどさ。俺花じゃねぇからさ。まぁハチが来ないだけいいかな。

うん。

あなたは、

あなたはあなたの好きだった人の匂いを覚えていますか?

あなたはあなたの好きだった人の匂いを忘れられましたか?

あなたは今好きなその人の匂いをできるだけ忘れないで下さい。

あなたが迷子になったときにその匂いを頼りに帰ってきてください。

世界で始めての香水は14世紀にハンガリー王室で使われた、ローズマリーを原料としたものらしい。

ローズマリーの花言葉は

「記憶・思い出」。

【こんなん書くけどあんまりお風呂は入らない↓】

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