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2008年11月

2008年11月30日 (日)

コールミー

最近ふと疑問を抱いたことがある。もしかしてもしかしてなのだが、僕の兄は、僕の名前を知らないのではないだろうか。

兄との付き合いはもうかれこれ20年以上になる。当然だ。僕が生まれてからこの日まで、どんなに形式的であったとしても、彼が近くにいない日などはなかった。

更に、と言うべきか、うちは両親が共働きであったために、兄弟2人で過ごした時間は多い。あんまり理解できてもいないのに、兄の傍に座ってよくボキャブラ天国を見ていたものだ。

しかしまぁそんな兄が、だ。僕の名前を知らないのではないか、と。もちろんここでいう「名前」というのは、斉藤アナスイというそれではない。あえて明記こそしないが、唯一無二の僕の本名のことである。

というのも、兄が僕の名前を呼んでいるのを聞いたことがないのだ。「なぁ」とか「ねぇ」とか、「ヘイ」とか「ヘイヘイ」とか、そんな具合で僕を呼ぶ。まぁまぁ男兄弟において名前を呼ぶのが気恥ずかしい気がするのは僕にもわかる。かといって「お兄ちゃん」と呼ぶにはあんまりだし、「兄貴」と呼ぶのはやりすぎている。弟を「弟」と呼べない兄という立場になれば、何と呼ぶかは尚更難しい問題なのだろう。

だから共感はする。それだけではさすがの僕だって、「名前を知らないんじゃないか」などという邪推はしない。ちゃんとした経緯があったのだ。そう、僕にそう思わせる経緯があった。

「ねぇ、ちょっと俺の携帯鳴らしてくれない?」

ちょっと前のことである。携帯が見つけられない兄が、僕にそんなことを言ってきた。あぁ、なるほどね。さっきから布団をひっくり返したりしてるからどうしたのかと思った。僕は手元にあった自分の携帯電話を開き、兄の携帯に電話をかけた。

ヴィーヴィー。

聞き覚えのあるヴァイブ音が鳴る。その音を頼りに携帯電話の位置を特定していく兄。ティッシュの箱の中を覗き込んでいるあたり、若干頭が個性的なのかもしれない。兄はどこか急いでいる様子だった。いつも通り気だるそうな中にも、わずかな焦りのようなものが感じられた。

ふむ、困ったものだな。

さっきから尻の辺りから、確かな鼓動を感じるんだが。兄の携帯は僕が座っている椅子の、背もたれと座る面の、なんかちょうどいいところに挟まっていた。僕が座っているのだ。そりゃ見つかるはずがない。あーあ。

僕は兄がこっちから目を背けた隙に、素早く携帯電話をとりだした。後はちょっと場所を移動して「あったよ」と一声かければよい。鳴り続ける携帯電話。人の携帯を見る趣味はないのだが、そのときふと兄の携帯電話の画面が目に入ってきた。

「着信 みどりのマキバオー

最初は意味がわからなかった。「あったよー。なんか電話かかってきてるー」。そうやって普通に携帯を渡すこともできた。しかし、違う。一拍挟んで、僕は事態に気がついた。あぁ、そうだ。兄の携帯に電話をかけたのは、僕だ。

みどりのマキバオーは、僕だ。

世界広しとはいえども、弟の名前をみどりのマキバオーで携帯に登録している人は、おそらく彼一人なのではないだろうか。なぜだ。なぜあなたは、そんな真似を?弟をメイド・イン・つの丸にするような、そんな仕打ちを?

疑問を抱いたのはそれからだった。兄は僕の名前を知らない。それまでは普通だった、僕の名前を呼ばないのにも、だから余計な尾ひれがついた。知らない?本当に?

普通ならば、弟の名前を知らないことなどまずありえない。しかし、僕の兄だ。アメリカに留学する際に、僕の原付の鍵を一緒に持っていった兄だ。「かたくりこ」を健康器具だと思っていた、あの兄だ。まったく残念ながら、完全に可能性を否定できる図々しさが僕にはない。

試すにしても、なぁ。「ねぇ、僕の名前を呼んでみて・・・?」などと言い出すのはかなり危険性が高い。それ以降僕を見る目が確実に変わってしまうことだろう。親にでも報告されてみろ。きっとサングラスをかけたスーツを着た屈強な男たちが、僕を知らないどこかに連れて行くに違いない。

じゃあどうすれば。別に結果が明らかになったところで、僕や兄の生活に何か変化が起こるわけではない。しかし、なぁ。気にはなる。

たまに真面目な顔で話をしていることもある。何か悩みでもあるのだろうか。何か譲れない情熱があるのだろうか。その瞬間は僕もちょっと気が引き締まる。しかし、愛犬を見つけた瞬間、「セプー」と名前を叫び、狂ったように飛びついていく兄。鏡にうつったセプを見て、鏡にむかって突進していったときは本当にどうしようかと思った。お前はトンボか。

どうやらこの様子では当分答えはわかりそうにないな。

ただまぁ名前を呼んでもらえる愛犬を、ちょっとだけ羨ましいと思ってしまう僕のほうが、悲しいことに残念なのは間違いだろう。

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2008年11月15日 (土)

それはない

久しぶりの更新でいきなりこんなことをいうのもあれなのだが、この前ふと死にかけた。

人は誰でも死ぬ。これはお金持ちであろうとスポーツ万能であろうとセクシャルナンバーワンだろうと、誰にだっていえる。共通なのだ。誰もが持ちえる権利でもあり、そしてまた義務でもある。だから、死ぬために生きている、なんて見方もあって。好きか嫌いかは別としても、間違っているわけではないのだろう。

音楽を聴いていた。音楽を聴きながら、歩いていた。雑踏もかき消すほどに、大きな大きな音で。まぁまぁ、確かに僕が悪いのだろう。

下を向いていた。下を向いて、歩いていた。眠かったのかもしれないし、疲れていたのかもしれない。ただ単に前を向きたくなかったのかもしれない。そういうところが確かに僕にはある。

角から飛び出してくる車には、遅すぎる刹那まで、まったく気がつかなかった。

人は死を選べない。これは共通。しかし、ある程度なら、死に方は選べる。こんな死に方をしたい、かっこよく死にたい。そんな夢想。はたから見れば恐ろしいぐらいに無駄な時間だが、特に暇な男にとっては、そんなものが大好物であったりもする。

黄色い車だった。

「おいおい、マジかよ」

その車に気づいた瞬間、僕はそんなことを思った。

高く鳴りつけるブレーキ音。

死ぬ・・・のか? ホントウニ?

いずれにせよ自慢できることではないのだが、単純に反射神経が鈍いのか、足がすくんでるからなのか、僕はわずかにも動くことができなかった。必死じゃなかったわけでは、決してなかったはずなのだけれど。

瞬間的だったにしろ、あんなに何かを注視したことはなかったかもしれない。黄色い車は、ゆっくりと、でも驚くべき速さで僕に近づいてきた。

人は死を覚悟すると、人生が走馬灯のように流れるという。単なる噂なのか。それとも僕が本当に死を感じなかったのか。しかし、僕には走馬灯など見えなかった。鮮やか過ぎる現実だけが、あくまでもリアルだった。

そこで僕の目が見たものは、走馬灯なんかではなく、車に書かれた文字。そう、それだけだったのだ。

「焼きたてナン おいしいヨ☆」

・・・え?

・・・し、死ねなぁいっ!これでは僕、死ねなぁいっ

その瞬間、僕は思いっきり体を捻りながら後方にジャンプしていた。もちろん着地後は地面に転がる形。しばらくすれば、痛いほどの周りの目線にも気づいた。

でも、それでもいい! ナンでは僕、死ねなぁいっ!

道端に転がる僕に、あわてて車から降りてきてかけよる。とても落ち着ける状況じゃなかったし、片言だったので具体的に何を言っているのかわからなかったが、とにかくひたすらに謝っているということは理解できた。

いやいや、気にしないでください。僕もぼけっとしてたのが悪いんだし」

結果的には何も起こっていない。僕はことを大げさにしたくなかったのでそんなことを言ったはずだ。

黄色い車が去っていく。

ナン・・・か。うん、それはない。それはないな。

僕は運転手が去り際に渡してきた紙を見てみた。

受け取りたくはなかったが、断れる余裕もなかったそれ。ツルツルした紙に派手な文字が躍る。

「焼きたてナン オイシイヨ☆」

割引券だった。

・・・それはない。それはないって。

僕は再び小さくつぶやいた。

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