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2009年2月

2009年2月17日 (火)

リブカタッシ

「ねぇ」

兄の問いかけに、僕は小説に目を落としながら反応した。
「ん?」

「あのさ、ちんぺーじって何だっけ?」

彼が何を言っているのか全く分からなかったから、僕は小説に目を落としながら反応した。
「知らない」

「いや、お前も絶対知ってるって!ホラ、あれだよ!あれ。何?」
「いや、知らないって。何?」
「ちんぺーじ」
「猿?」
「それチンパンジー」

とりあえず、僕は持っていた小説を閉じてみる。それで何かが解決するわけではないが、全てはそこからな気がした。

「何?」
「ちんぺーじ」
「いや、ちんぺーじじゃなくて」
「ちんぺーじ」
「いや、ちんぺーじじゃなくて」

知らねぇよ。頭の中で僕がそうつぶやいたとき、ババァがやってきた。
僕から満足な答えが得られなかった兄は、次にババァに投げかけることを選んだようだ。

「ねぇ、ちんぺーじって知ってるでしょ?」
「ちん?何?」

やっぱりねぇ。

「知らないの?まったくいい大人がこれだけ集まって・・・」
「・・・あ、あぁ、あれね。ちんね。もちろん知ってるわよ!」

マジで!?知ってるの!?ちん!?

「映画監督・・・?」
「じゃない」
「じゃないほうだよね、やっぱり。あれでしょ、ちんでしょ。知ってる」

・・・映画監督にもいるんだ。

「・・・バンドの?」
「違う」
「・・・よね。ちょっと待って今思い出すから!」

あぁ。

「・・・猿?」
「それチンパンジー」
「知ってる」

・・・さては、無理してるな。賭けてもいい、まずババァはちんぺーじを知らない。

「ねぇ、思い出した?」

え?俺?
マジで?・・・。

「う、うん!なんか思い出せそう!」

言えない。この状況で知らないなんて言えない。ババァが「全知り」のポーズをとっている以上、ここで僕が知らないといえば、どうなるか。僕が斉藤家で一番知識がない、という図式が完成してしまう。それだけはどうしても許し難い。チョモランマを犬の種類だと思っていた母と、小さい頃好きだった遊びが「ゲームボーイを砂に埋める」だった兄の前で、その醜態はあり得ない。

「ちんぺーじ・・・」

「知ってる知ってる!」
「ここまで出掛かってるんだけどなぁー!」

わかんねぇよ。なんだちんぺーじって。

「わかった !」

な!?ババァの奇声に僕は顔を上げた。し、しまった!先を越されたか!?

「猿だ!」

ここまで兄弟の息が揃ったのはいつ以来だろう。見事なまでの「哀れみ」が完成した。

「ヒントは?」

ババァ・・・。

「最初の文字だけ!」

ババァ・・・。

「いや、ごめん。俺も分かんないから」

ごもっとも。

「どう?」
お、俺か・・・。
ど、どうって言われても。
「あ、あれじゃない。あのゲームか何かの・・・」
分かんないよー。
「・・・あ、それ近いかも・・・」
マジで!?何か当たった!
「や、やっぱりね!ゲームだよ!ゲーム!ゲームに決まってんじゃん!」
みたか、ババァ。これが若き力よ。
「あ、そうだ!ゲームだゲーム!」
な!?ババァ、のっかってきやがった!ふざけんな、それ俺んだぞ!

「でも、ゲームじゃなかったような・・・」
あら?
「そうだよ!ゲームなわけないじゃん!誰ゲームとか言ったの!」
おいババァ、こっち見てんじゃねぇよ!
「やーいやーい!」
ババァ!粗末な葬式あげるぞ!

はぁ・・・。
それぞれに小さくつぶやく。

「ちんぺーじ・・・」
「ちんぺーじ・・・」
「ちんパーティー・・・」

もはや前提から間違っているババァをかまっている余裕はなくなっていた。
ここまでいくと体裁よりも答えのほうが気になってくる。誰でもいい。教えてくれ。ちんぺーじって一体何なんだ?

その夜はほとんど眠れぬ夜を過ごした。ちんぺーじ。ちんぺーじ。その言葉が頭の中をぐるグルと回っていた。

神様教えてください。ちんぺーじって、一体何なのですか?

もちろん返事はない。

・・・明かり?

そのとき朝日がゆっくりと差してきて、僕らのちんぺーじをそっと照らした。

追記

思い出したという兄に聞いたところ、ちんぺーじとは「自分が小さいころに考えたヒーロー」だそうです。

【目標15位以内キープ】

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2009年2月 8日 (日)

Lost

小学校高学年、いや、もう中学生かな。精一杯背伸びしてるのはわかるのだけど、それはもう幼くて。いや、本当はここまで背伸びをしているのが分かってしまうことこそが、幼いということなのだろう。

同世代には何かと認められている部分もあるのかしら。髪を茶色に染めて、ちょっと悪そうな格好をして。ちびっ子ギャングなんて形容がよく似合う。そんな男の子2人がいた。そんな2人の会話を、僕はタバコを吸いながら聞いていた。

おそらく一人の男の子(茶髪)のほうが色々と進んでいるだろう。もう一人の男の子(黒髪)に説くは説く。偉そうではないけれど、その様子はどこか自慢げだ。

茶髪「デートはマジで金かかるから!多めに持っていったほうがいいよ!」

いやぁ、もう最近のお子様は。すごいね。俺、たぶんその頃ポケットにビスケットいれて叩いたりしてたよ?何か頭悪かったよ?マセてんねぇ。

「映画見て、飯食って・・・だから3000円は持っときな!」

3000円て。か、可愛いな。やっぱり子供は子供。うひょ、うひょひょひょひょひょ。笑ってはいけないと思いつつも、おかしくて。だって3000円て。

「あ、映画代俺が出すよ」
「え?でも悪いよ」
「いやいや、ちょっと格好つけさせて(笑)」
「えー、でも・・・」
「いいからいいから!」
「そ、そう?」
「うん!あ、でも悪いんだけどさ・・・600円貸してくれない?」

終了。3000円て。

これが3000円の限界だろう。映画代が大人1800円、奢りでもすればこの時点で足が出てしまう。これから先1円たりとも使えないし、帰りは選択の余地なく徒歩。夕飯は、公園でボランティアの人が配ってる味噌汁の列に並ぶしかない。3000円て。なんておかしいんざんしょ。

しかし、なんだろうな。彼らの会話を聞いてからできた、この胸のモヤモヤは。

おそらく彼らの年で3000円は決して安くはない。僕だって彼らと同じような年だったことがあるからわかる。アルバイトもできないし、小遣いを何とかやりくりして・・・。そう考えれば、3000円は彼らにとって最大の数字なのかもしれない。

3000円か。

確かに、巨額を投じたからといって、それが=いいデートというわけではないだろう。今持っているカードで、悩み、行き詰まり、少しでも相手を楽しませようとする。正しい姿勢だ。わぁ、なんか青春っぽい。いいな、いいな。そんなもの、すっかり忘れてた。

なんかちょっとうらやましかったのだ。3000円のデートが。そうだ、間違いなくそれがモヤモヤの正体なのだ。

3000円のデート、そこには僕が失ってしまった何かが、あった。
3000円のデート、果たして今の僕にもできるだろうか。

3000円のデート、思いを巡らせてみる。3000円で僕は何ができる?基本線は、茶髪の言った映画を見てご飯を食べるというプランに沿ってみるか。しかしこのプラン、一見間違いないようにも見えるが、無条件で当たるというわけではない。何を隠そう僕自身、過去にこの作戦で見事に失敗を犯しているのだ。

前もって上映時間を調べた僕にぬかりはなかったはずだ、ご飯中だって観た映画の話で頑張って盛り上げようとしたはずだ。しかし、それからその女の子が僕とデートしてくれることは、ついに二度となかった。そして僕は学んだのだ。最初のデートで「北京原人 Who are you?」を観てはいけないと。

この事件は僕の中で、ほぼトラウマに近い形で残っている。最初のデートで観る映画は、相当気を使って選ばなければならない。

場所は、新宿辺りが妥当か。3000円から捻出する交通費はバカにならないが、かといって近所の公園に梅のツボミを見に行くわけにもいくまい。相手の交通の便も考えて。それに新宿に行けば、映画を観た後とりあえず1日乗り切れるぐらいの何かはあるだろう。

我が家から新宿までの往復の電車賃は900円。すでに3分の1がいかれている。朝4時に出て新宿まで歩くことも考えたが、それでは体力的にデートどころではない。ご飯はマクドナルドでリアルバリューセット(ハンバーガー、マックポーク、水)を頼むとして、自由に使えるのは残り1900円。

映画を観たら残り100円。映画代ぐらい奢りたいところだが、残念ながらそんな余裕はない。

え、残り100円!?ちょっと早くない?どうしよう、ブックオフいけば時間潰せるかも・・・いやいや。とりあえず、お金を持ってないことを悟られてはいけない。とりあえずしゃべり続けるか。それしかないな。とにかく必死に時間を潰すのだ。頑張れ、頑張れ自分。

女の子「次どこいこっか?」

「うーん。あ、そういえばさゴリラの血液型ってB型しかないって知ってた!?」

女の子「え、マジで!?」

~2時間後~

女の子「・・・そろそろどっか行く?」

「うん。いや、でもB型しかないってすごいよね!」

女の子「・・・そうだね」

~1時間後~

女の子「・・・」

「・・・ゴリラ・・・」

女の子「・・・いこっか」

「・・・うん」

マクドナルドから外に出ると、辺りはすっかり暗い。ポケットに入った100円玉を握り締めて歩く。そしてそれはゲームセンターの前を通りかかったときのことだった。

女の子「そうだ、記念にプリクラとっていかない!?」

「え!?」

女の子「・・・ダメ?」

「いや、ダメじゃないけど・・・ほら、写真は魂を・・・」

女の子「それ全然面白くないよ」

「・・・はは、だよね」

女の子「・・・あたしと一緒じゃ、ダメ?」

「い、いや。わかった、撮ろうか!」

女の子「本当!?やったー!」

「・・・その代わり、4分の1しか写らないから100円しか払わなくてもいいですか?」

女の子「死ね」

色々考えたけど、どう考えても無理でした。

・・・。

いいよ・・・別に実際3000円デートなんかするわけじゃないし。俺、大人だし・・・。デートとか、うん。大丈夫。本当、別になんでもないから。

飲み物を買おうとしたら、財布の中に350円しか入っていなかった。

・・・お母さん、僕何も勝てないよ。

・・・。

子供たちよ、もっと高オニとかで遊んだほうがいい。さもなくば、大人が必要以上にキュッとしてしまうであろう。              -斉藤アナスイ

【目標15位以内キープ】

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