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2012年1月

2012年1月29日 (日)

「お疲れさま」が聞きたくて

肩、こりてぇ。

 

いや、こんなこと肩こりでお悩みの方の前で言ったら、頭からお湯ぶっかけられそうなんですけど。

 

肩、こりてぇ。こってみてぇ。どんどんこっていきてぇ。
 

僕ってば、まったく肩がこらない体質でして。仕事とかね、結構パソコンの前にいる。朝から夜まで、まぁまぁモニターと向き合ってる。しかしね、「あー疲れた」とか言ってね、肩に手やるんですけど。もうね、スッカスカなの。肩。何も入ってないの。

 

だって肩こりって、なんか「頑張ってる感」あるじゃないですか。離れ小島の医者とかね、売れっ子の大作家とかね、和の道場(みちば)とかね、きっと皆肩こってる。色んな重圧と闘って、頑張ってる。そりゃ、肩こっても全然おかしくない。

 

かたや、あたくし。土日も出勤して、何なら寝ないで仕事して、でも一個も肩こりしてない。これね。どっかで手抜いてた臭が、もう。人前でのみ努力してる臭が、もう。

 

あの、料理できない子がね、好きな人のために一生懸命手料理つくるじゃないですか。でも、慣れてないから、手は絆創膏だらけになって。で、それをね、その相手に見つかるんです。そこで「えへへ☆」って、サって後ろに隠すんですけど。そんなパターンをよく見かけるんですけど。

 

えっと?君、その手わざと見せてない?って。少なくとも僕ならね、わざと見せる。そして、確かに「えへへ☆」って隠す。さりげなく「頑張った感」をお知らせする。言ったらね、その絆創膏が、肩こりなわけですよ。でもね、肩こりは目に見えないの。実際に凝ってないと、伝わらないの。

 

例えばね、美容院とか行くじゃないですか。「お仕事大変なんですねー」って美容師さん。「えぇまぁ」って僕。そこからシャンプーが終わって、マッサージが始まるわけなんですけど。
絶対思ってるんだ、「ふふ、この程度の肩こりで、大袈裟だなぁ(笑)」って。「こいつ、38度の熱で『俺もう死ぬ』とか言うタイプだわ(笑)」って。

 

もうね、全然説得力ないんですよ。そんな柔い肩で言っても。「下町のナポレオン」ぐらい説得力ないわけ。「どこからでも切れます」って書いてあるのに、どこからも切れないの。

 

あこがれなんです、肩こり。

 

正直、言いたい。「最近肩こりひどくてさー」って。辛そうな顔したい。何なら、ちょっと揉んで欲しい。で、「うわ、すごーい!」って言われたい。最後は「ほんとにお仕事頑張ってるんだねー。お疲れさま☆」で締めてくれれば、それだけでご飯3杯はイケる。

 

そんなことを考えていた、とある夜のこと。友達とご飯を食べに行った際に、その友達が言うんですよ。「最近肩こりひどくてさー」。もうね、こいつずるいと思った。それ、俺がすげー言いたかったやつだって。でもね、言いませんよ、そんなこと。「大変だねー」って。「何が原因なんだろうねー」って。そこはもう、大人の対応。そしたら、友達は言いました。「多分、荷物が重過ぎるんだよねー」って。なるほど、荷物がねぇ…。荷物…。

 

…ピコーン!(電球)

 

僕「そっか!そうだよ!荷物だよ!」
友達「は?」
僕「いやー!なー!あのさ、俺達ずっと友達だよな!」
友達「…いや、ごめん。今ちょっと自信無いわ」

 

次の日の朝は、こっそり荷物を重めにこしらえました。肩掛けカバンにね、重りになりそうな本とか、ガシャガシャ入れた。やっぱり負荷は大事ですよ。それでも肩こらなかったから、もっと荷物を重くしてみた。明くる日は、もっと重くした。次の日には、目に入るもの、手当たり次第カバンにぶち込んだ。

 

お、重ぇぇぇぇー!!!!

 

すごいよ。これ、ジャンプとかで、バトル中に敵が外しても違和感ない。「(ズンッ!)くくく、俺の本気を見せてやろう」って言われても、全然ゾッとなれる。そのカバンを持ったときはね、さすがに確信しましたね。「間違いなく、これは肩こるぞ」と。「パンパンだぞ」と。

 

そしたら、駅でカバンの紐切れたなぁ。
目の前で、大量のビー玉が転がったなぁ。

 

ビー玉ザーで、血の気もザー。本当、ちょっとしたカニの産卵みたいになりましてね。たまたま通りがかった外国の方がね、なんか「ヘイ!クレイジーマジシャン!」みたいなこと言っててね。もう、2年分ぐらい「すいません」って言って拾った。もう絶対やらないんだ。

 

これは、実際に体験したことないんで、ちょっとわかんないんですけど。肩こってる人って、肩揉んでもらうと、きっと気持ちいいんだろうなって。マンガとかドラマとかでね、「はんあああぁー…」みたいな声出してんの、何回か見たことあるんです。これも羨ましくってねぇ。

 

マッサージ屋さんには行かないんですけど、さっきも言ったように、美容院とかでマッサージしてもらうじゃないですか。その時にね、「お仕事大変なんですねー」「えぇまぁ」の件があったから、美容師さんも「仕事人癒しモード(肩こり解消モード)」で来るんですよ。ハナから。

 

もうね、痛ぇのなんのって。でもね、言いたくない。「仕事大変なんです」って言った以上はね、肩こりはセットで考えられる。これは仕方がない。ここで引いたら、俺の「仕事大変なんです」が台無しになってしまうわけですよ。だから「大丈夫ですか?痛くないですか?」って最大のチャンスも、華麗にスルー。そして後悔。

 

痛いからね、肩に力入れるんです。そしたらね、「そうこなくっちゃ!」って感じで、美容師さんの揉む力も強くなる。だから、もっと肩に力を入れる。そしたら、もっと強く揉んでくる。だから、もっと肩に力を…そしたらもっと強く…

 

お前は泥沼かと。何もがけばもがくほどハマってんだと。

 

もうね、俄然疲れてる。マッサージ前に比べてね、よっぽどゼィゼィ言ってる。鏡で一回確認しますからね。「えっと?肩とれてない?」って。これがモンハンだったらね、絶対「面長男の肩」とかゲットしてる感じ。

 

いいなぁ。肩こり、いいなぁ。

 

いや、こんなこと肩こりでお悩みの方の前で言ったら、頭からお湯ぶっかけられそうなんですけどね。

 

大人の肩こりって、男の肩こりって、ちょっとカッコいいなぁと思うのです。

 

本当、丁度いいときだけでいいんで、肩こらないかなぁと思うのです。 

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2012年1月21日 (土)

純情な感情

先日、高校時代の友人からお誘いを受けまして。「今、何人かでご飯食べてるんだけど、お前も来ない?」って電話が来たんです。ちょうど仕事も一段落してたところだったので、ワーイ☆と思って。行く行くー☆って。 

 

その子とは「今度ご飯でも行こうよー」ってことあるごとに言ってたんですどね、中々タイミングが合わず。何年かぶりの再会です。「あいつ変わったかなー」なんてワクワクしつつ、ちょっとだけ緊張もしつつ、電車に揺られること10数分。お店の前に着いて電話をすると、彼が入り口まで迎えに来てくれました。おー、Kくん!元気だったー!?久しぶりー!

 

K「…ごめん

えー!?いやいやーそんないきなり謝んなくていいよー!俺も久しぶりってことは、お前とて久しぶりってことじゃん!?なんつーか、そこはお互い様じゃん!?

K「いや、そうじゃなくて。その、ごめん

…えっと?あれー?俺が大人っぽくなり過ぎて、恐縮しちゃった?って違うかー(笑)

 

違った。本当に全然違った。

 

なんていうんですかね、Kくんに案内されるがまま通されたテーブルが、ことのほかシンミリしておりまして。他のテーブルと比べて、明らかに異質。あ、バスタオル湯船に落とすと、これぐらいズッシリするよねっていう空気感。聞くまでもなく、柔軟剤使ってない感じ。というか、えっと?一人泣いてない

 

うん、これは泣いてる(確認)。それも割と本気のやつ(黙認)。

 

K「お前何飲む?」
僕「え!?あ、うん、どうしよっかな…」

 

じゃ、じゃあ、とりあえずビールで!いや、でも、あれだよ?俺のこととかね、そんなに構ってくれなくていいよ?え、おつまみ?あ、大丈夫大丈夫。ご飯家で済ませてきたから。

 

K「あの、アナスイも来たことだし、一応乾杯すっか…」

 

いやいやいやいや。もう、本当、心から気にしてくれなくていい。ほら、乾杯とか、次会ったときでも全然いいし?何なら俺、乾杯も家で済ませて来たから大丈夫、みたいな?あの、遅れてきてこんなこと言うのもアレだけどさ、何て言うか、うん、そっち先済まそ?

 

Kくんの粋な計らいにより、乾杯を済ませるKくん、ユッピー(あだ名)、Wくん(泣いてる)、僕(泣きそう)の4人。あれ?ユッピー今「献杯」って言ったよね?絶対言ったよね?

 

もうね、ビールすごい勢いで飲んだ。とりあえず、早くこのテーブルの雰囲気に追いつこうと思って。K「次、どうする?」僕「えっと、じゃあこれで!」。お酒なんて何でもいい。ただ、お酒の力を借りたかった。

 

そしてここからは、全身全霊をもって、彼らが発する全ての情報を収集する作業に没頭しました。もうね、一言たりとも聞き逃さない。下町の聖徳太子。W君が何故泣いているのか-それを解き明かさない以上、このテーブルに未来はないなと。

 

【調査結果】

①Wくんが、好きな女の子に振られた(多分)。

②それで泣いてる(多分)。

 

よし、一生懸命励ましてるKくんとユッピーの言動から、そこまでは把握できた。うん、そっか。それは辛いでしょうに。大変だったね、Wくん。

 

W「でも俺、まだ諦められないんだよ!だって」

店員さん「お待たせしましたぁ、こちらレゲエパンチでぇっす

 

…いやごめん、マジでごめん。まさかこのタイミングで来るとは。しかも何か、俺すげー楽しそうなの頼んじゃってる。もうね、空気に押され押されて「じゃあこれで」って適当に頼んだけど、現状とてつもなく後悔。頭の中で、ボブ・マーリーが「呼んだ?」ってこっち見てる。

 

W「…だって、この前も2人で遊びに行ってさ」

 

仕切り直させて、本当にごめんなさい。何だろうこの、カラオケでサビ前に操作間違って消しちゃった感じ。「ご、ごめん!」って慌てて再送するけど、トーンダウンは否めない感じ。心から陳謝します。

 

その後も、Wくんが泣き、Kくんとユッピーが慰めるという構図は続きます。でもね、泣きたい時は、泣いたらいいと思うんだ。吐き出したいなら、吐き出せばいい。僕もね、何も言ってあげられないけども、話聞くだけならできるしさ。

 

K「それでアナスイはどう思う?」

 

やっぱり、いくつになっても失恋は辛いよね。それは泣きたくもなるよね。こう、胸のあたりがグってなってね。僕もね、何も言ってあげられないけども、話聞くだけなら…え?

 

K「いや、アナスイはどう思う?まだ脈あるかね?」

 

何が?医学の話?

 

K「諦めた方がいいか、諦めない方がいいか」

 

あ、やっぱりそっち?10対0でそうだとは思ったんだけど。

 

W「まだ可能性ゼロじゃないかな…?」

 

諦めるか、諦めないかね。そっか、なるほどね。うん。

 

僕もね、割と出会いとかは大事にする方。「一期一会」っていう言葉もね、素敵だなぁと思うよ。ただ、一個。一個だけ聞かせてもらってもいいかな?本当、この期に及んでこんなことを聞くのも、申し訳ない限りなんだけど。

 

ごめんなさい。まずそのWくん?は、どちら様ですか?

 

Kくんとかユッピーが「Wが〜、Wの〜」っていうから、多分Wくんなんだろうなぁとは思ってた。ただ、ちょっとそれ意外の情報が入ってこない、というか。友人にまでしか公開してない、というか。え?どっかで会ったことある?

 

Wくん「あ、はじめまして」

 

ですよねー。違う出会い方してたら、お互いもう少し早くそんな挨拶もできたんですけど。まぁまぁこういうのは、気持ちが大事だから。

 

もうね、俄然初対面なわけ。Kくんとユッピーは、高校卒業後、同じ大学に進みました。そして、そこで知り合ったのが、Wくんだったと。そんな紹介を受けまして。ふーん、そうなんだぁ、と。

 

K「うん。………」

 

え?え?えー?何その、明らかに何かを待ってる感じの沈黙。さぁ俺は言うこと言ったけど?みたいな。次はお前のターンだよ?みたいな。

 

えっと。本当にそれ、俺が答えるの?それって、結構大事なやつじゃないの?俺、その好きな子どころか、本人のこともろくろく知らないのに?

 

いや、それはちょっと待てと。まぁまぁ、僕もそこそこの大人ですけれども。やっぱり出会ったその日にっていうのは、ちょっと急過ぎるというか。もうちょっとムードを大事にしたいところも、無くは無いと言うか。まぁ要するに、おうちに帰りたいと。

 

K「W、こいつライターだからさ

 

だから何ー!!!ねぇ、やめて。「ほら、早く言葉を自在に操ってくださいよ兄さん」みたいな目、マジでやめて。俺、本当売れてないから。お前らが思ってるよりずっとだから。

 

あの、人の愚痴とかね、悩みとかね、そういうのを聞くのは、割と嫌いじゃないんです。「話聞いてもらえただけでも、楽になったよー!」とかね、そういう地蔵役でよければ、割とドラフト3位ぐらいで指名される素質持ってるんです。

 

ただこう、期待されると滅法弱いというか。要するに「ねぇ、お前はどう思う?」とか聞かれちゃうと、「あれ?ここ東京駅かな?」ってぐらい迷子になる。 「俺はそれでいいと思うよ。でもね、逆に言えば、俺はそれじゃダメだと思う」。もうね、ひたすら構内を行ったり来たり。「つまり言いたいのは、シャケなのかサケなのかってことでしょ」。最終的には、いつも間違えて京葉線に乗ってる。

 

ただでさえね、そうなのに。その上ね、今夜のお相手は知らない殿方。何なら遅れてきてて、いまだ雰囲気に溶け込めてない。えっと、これって数え役満じゃない?不利な条件集まり過ぎて、鼻からシェンロン出てきそう。

 

これがね、「林家ぺーの『ぺー』は、平仮名なのかカタカナなのか」とかって悩みならね、僕だって気軽に答える。でもさ、今回ずいぶん様相違うじゃん。割と「今後」とかに絡んでくるやつじゃん。それはあーた、ちょっと厳しいんじゃなくて?

 

K「…」

 

あ、そう。通じない、と。いいから何か言え、と。やばい、血管キューッてなってきた。

 

Wくんは、ずっとその人が好きだった。その人といると、いつも楽しかった。でも、振られた。諦めるか、諦めないか。集めた情報を、グルグルと脳内で回す。脳内をフル回転する。口の中がカラカラになるが、頼みのレゲェパンチはもう空だ。…うん、僕もね、そんな経験あるよ。ライターではなく、一人の男として。彼に伝えたいこと。

 

僕「…Wくんにとってその人は、光、だったんですよね?」

 

Wくんにとって、その人がいかに大切な人だったかを、もう一度確認して欲しい。その上で、答えを出すのは、あなた自身だと。絶対にそうするべきだと。僕は、そう伝えたかった。

 

W「え?」
僕「Wくんにとってその人は、希望、だったんですよね?」

 

それは、不思議な感覚でした。最初の言葉を紡ぐと、それ以降の言葉が、次々と脳内に浮かんでくる。あ、これが神様が降りてくるってこと?その時は、本気でそんな風に思いました。

 

W「うん、まぁ、そうだね」
僕「Wくんにとってその人は、ふれ合いの心」

 

ふ、ふれあいのこころ?

 

W「ふれ合いの心?」
僕「幸せの…あ…」
K「青い雲ー」
K・ユッピー・W・僕「青雲〜♪

 

違う。聞いてくれ。本当に、僕は本気でWくんの行く末を考えてたんだ。自分でも、「ふれあいの心」あたりから、何かがおかしいとは思ってた。幸せの青い雲ではもう、確信もしてたよ。でも、止まらなかった。本当は、そんなことが言いたかったんじゃない。ただ、ただ僕は、その人がWくんにとって、どれだけ大切かって。それだけを。伝えたくて。だから、決してふざけたわけじゃないんだけど…も?

 

K「…お前いい加減にしろよ…」

 

だって!だって皆が追いつめるから!ライターで〜とかって言うから!何か言わなきゃと思って…ほら、見て!いつの間にかWくんも泣き止んでるし!…ダメ?

 

もうね、その後、一生発言権もらえなかった。「違うんだ、本当にそうじゃないんだ…」って、一人でずっと呟いてた。遅れていったのに、お金ちょっと多めに払った。「はい」って言って、払った。

 

〜後日談〜

結局諦めきれなかったWくんは、その後、好きだった例の子に再アタック。なんと昨年の12月頭から、付き合うことになったようです。それを聞いた時は、何て言うか、もう色んな意味で泣きそうでした。

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2012年1月 9日 (月)

二人でできたもん

皆さん明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願いいたします。

 

年末年始のドタバタにあてられてか、うちのお母さんがちょっと体調を崩しまして。とは言ってもね、普段から元気丸出しって感じだから。気抜くと半ズボンとか履きだすから。まぁ患ってようやく、人様のお母さん(×1.2)ぐらいなんだけど。

 

本当にね、普段から風邪ひとつひかないお母さん。平熱とかね、なんか知らんけど34.8度とかなのね。もうね、明け方の便座かしらってぐらいキンキンに冷えてる。例えば、僕が風邪とか引くじゃないですか。そしたらね、冷えピタの剥がしたビニールのほう、おでこに貼ろうとするから。それぐらい、病気とは縁がない人なんです。

 

で、まぁお母さんが珍しくダウンすると、我が家では僕が夕飯係になったりするんですけど。今だったらね、料理の楽しみもわかるし、それなりに作れる料理もある。まぁ昨日もさくっと、お蕎麦(美味しい)なんかを仕上げたんですけど。

 

しっかしねー本当、普段からちょっとでも料理しておいてよかったなと。危ねー危ねーと。こういうとき右も左もわかんないと、マジでちょっとした「乱」みたいになるから。

 

僕が初めて斉藤家のグランドシェフを任されたのがね、確か高校生とかの頃。もう10年前とかそんな話。うちのお母さん、10年に一回とかしか風邪ひかないから。

 

その頃なんてね、もう料理の「り」の字も知らないわけですよ。包丁なんて握ったこともない。でも、お父さんは仕事で帰りが遅いし。それで僕と兄で、家族分の夕飯を作ることになったんですけど。もうね、失敗したらどうしようって、すごい不安だったんです。お兄ちゃんだって、料理してるところなんて見たことなかったし。

 

でもね、お兄ちゃんが言うんです。
大丈夫、俺がついてるから!

 

いやはやさすが人生の先輩だな、と。普段はフワフワしてるけど、このときばかりは輝いて見えた。背中とかね、こんな大きかったかなって。正直、ちょっとカッコいいなって。

 

テキパキと戸棚を開けたり閉めたりする兄。でもね、よくよく見てると、やっぱりちょっと様子がおかしいんですよ。開けたり閉めたりしてるだけで、ひとつも前進してる気配がないの。

 

兄「よし!とりあえずお湯を沸かそう!」

 

ってね、コンロの火をつけようと頑張ってるんだけど。何かね、すげー腰引けてんの。コンロのつまみグッと握ってね、「ま、回れぇー!!!」とか言ってんの。え?料理ってこんなダイハードみたいなことだっけ?

 

僕「えっと?何してるか聞いてもいい?」
兄「いや、なんか火って怖いじゃん」

 

あれ?もしかして、15歳ぐらいまでオオカミに育てられた?大丈夫大丈夫、ほら、そんなに怖くないよ?

 

その日は結局パスタを作ることにしたんですけど。まず鍋にね、どれぐらいの量のパスタを入れれば良いのかがわからない。なんか袋に1人分何グラムー、みたいに書いてあるんだけど、その「何グラム」が、実際どれくらいに相当するのかと。それで、またちょっと不安になってきたんです。これ本当にできるのかな…って。

 

でも、そこで目に入ったのが自信満々の兄の顔。大丈夫。僕の心を見透かすようにね、兄はコクリと頷きました。

 

兄「パスタは茹だると膨らむから。ちゃんと量を計算しないと」
僕「お、お兄ちゃん!」

 

ごめんね。本当、さっきはオオカミとか言ってごめん。さすがだよ。頼りになるなる。もうずっと、未来永劫あなたに着いていきたい。

 

兄「15、いや10本でいいかな!
僕「うん!」

 

あのね、あれから結構料理とかするようになったけど、パスタ本数で測ったことない。レシピとか見ててもね、材料「パスタ-10本」とかあんまり出てこない。でも、その時は兄の言葉が、たったひとつの道しるべだったから。

 

そして10本のパスタを鍋に投入し、ひたすら茹で上がるのを待つ僕ら。思えば、兄弟2人でこんなにゆっくり会話をしたのも、久しぶりでしたね。

 

兄「ねぇ、ピザって10回言って」
僕「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
兄「そういえばこの前、マー君にあったよ」
僕「本当に?」

 

マー君っていうのは、僕の幼なじみで。斉藤家にもよく遊びに来てたから、兄とも顔見知りなんです。

 

僕「なんか言ってた?」
兄「いや、とくには。お前によろしくって」
僕「そっか」
兄「うん」

 

そうこうしているうちに、9分間。ようやく、パスタが茹で上がりました。沸き立つお湯の中で、自由に泳ぎ回るパスタたち。あ、あれ?膨らんで…?

 

兄「どう?」
僕「えっと…ちょっと少ないかな」
兄「何本?
僕「6、7…10本」
兄「マジで?」

 

マジで?、じゃなくて。膨らむって言っても、そうは膨らまないよね。太さはかわっても、基本的に本数はかわらないよね。もうね、全然足りてないの。TOKIOの山口君の袖ぐらい足りてないの。山口君、冬でも大体ノースリーブなの。

 

僕「次は何本?」兄「強気に20本」「だめ押しの7本」みたいなことを永遠繰り返し、パスタを継ぎ足し継ぎ足し、ようやく丁度いい量になったのは、開始から約1時間後。最初に茹でた10本とかね、もう地蔵みたいになっちゃってた。大分カピついてた。

 

それでね、ミートソースだの和風なんちゃらだのっていう、謎が謎を呼ぶパスタはやめておいて。僕らでもできそうな、ナポリタンを作ることにしたんです。あれでしょ?ケッチャップかければいいんでしょ?みたいな感じで。俺、混ぜるのはそれなりに自信あるけど?みたいな感じで。

 

兄「なんか野菜入れないとね」

 

って、冷蔵庫をゴソゴソと漁る兄。ジャガイモを取り出しては「違うな」、ニンジンを取り出しては「違う」。そしてようやく、兄はお目当ての子に巡り会いました。「これだ!ナポリタンと言ったら、やっぱり玉ねぎ!」

 

た、た、た、玉ねぎー!!!!!!

 

切ったことない。切り方もわかんない。

だってね、玉ねぎって言ったら、野菜界のラスボスみたいなとこある。これがキュウリだったらね、そりゃ僕でも切れるでしょうよ。トマトでも、イメージはできる。しかし玉ねぎ。それ、何か硬くない?しかもあれでしょ。何なら、涙とか出るんでしょ?もうね、3000円チャージするときと同じぐらいの緊張感。

 

とりあえず、勘で皮を剥きました。それを半分に切りました。それを半分に切りました。それを半分に。半分に。半分に。半分に。半分。半分。半分。半分。半。半。半。は。は。は。は。h。h。h。

 

大丈夫?何か俺、限りなくゼロ発見しそうになってるけど。そろそろ止めてくれない?

 

兄「もういっか」
僕「うん(ハァハァ)」
兄「でもお前、うまいじゃん!」
僕「そ、そうかな?」←なんだかんだ言ってちょっと嬉しい
兄「うまいうまい。俺がレストランやったらシェフとして雇ってあげるよ」
僕「あはは、ありがと」

 

自分で言うのもアレだけど、ちょっと微笑ましいなーと。何にもわかんなかったけど、すごく楽しかった。それでね、その後も他の材料と用意とかをしてたんですけど。

 

兄「ねぇ、早く受けにきて」
僕「え?何を?」
兄「シェフの面接

 

え?それ、まだ言ってんの?兄「早く面接受けにきてよ。さっきからずっと待ってるんだから」。え?しかも今やんの?

 

僕「…ここで働かせてください」
兄「お断りだね」
僕「え?」
兄「まだいたのかい。さっさと出て行きな!」
兄「ここで働かせてください!」
兄「黙れー!」
兄「ここで働きたいんです!」
兄「大きな声を出すんじゃないよ!」
兄「働かせてください!」
兄「わかった!わかったから勘弁しておくれ!」

僕「さっきから、一人で何言ってんの…?

 

千と千尋なの?このタイミングで?

 

幼い(そうでもない)二人の冒険もそろそろ終盤。なんとなく切った野菜やらを炒め、茹でたパスタを投入し、ケチャップとか色々で味付けは完了。あとは、これをお皿に盛りつけるだけです。兄「あのさ」。ん?何?今ちょっと忙しいんだけど。

 

兄「ピザって10回言って」
僕「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」
兄「一休さんってクズだよね」
僕 「クズはお前だよ」

 

なんで今それ言うの?っていうか、なんでちょいちょいピザって10回言わせんの?

 

母「んー?何かいい匂いするねー」

 

ここで、さっきまで寝ていたお母さんが登場。大丈夫?もう寝てなくていいの?

 

母「うん、もう大丈夫。ちょっと用もないのにトイザらス行ってくるね

 

いや、ごめん。全然大丈夫に見えないんだけど。完全に熱で頭やられてるでしょ。何トイザらスって。

 

兄と2人で作ったナポリタン。お父さんもいつもより早く帰ってきて、家族4人で頂きました。最初お母さんは「私は大丈夫」って言ってたんだけど、「やっぱりちょっと食べたい」って。

 

元々母は食が細い人なんです。しかも風邪をひいてたから、食欲もなかったはず。それでもね、「美味しい」って言ってくれたんです。今思えばね、もうね、全然。作り方も何もかもが滅茶苦茶だった。でも、母は喜んでくれた。僕らもそう言ってもらえたのが嬉しくて、「まだあるよ!」「俺のも食べなよ!」って。

 

僕は、この日、2つの大きなことを学びました。

 

1つはね、料理は誰かのためにすると、すごく楽しいということ。これはね、本当にいい経験だった。今料理を作る時もね、やっぱり誰かに食べてもらえると嬉しい。それが親だったりすると、ちょっと緊張もするんだけど。

 

そしてもう1つはね、病気の老婆に調子乗ってナポリタン食べさせまくると、綺麗なオレンジ色のゲロを吐くということ。 

 

本当にね、こんな家族だけど、今年も元気にやっていけたらいいなと思うんだ。

【明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします】

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