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2012年3月11日 (日)

拝啓、春様

拝啓 春様

0311

 

今年も、じきに桜の花が咲くのでしょうか。

出会いの季節。別れの季節。

そして、人をちょっこしおかしくする季節。

あなたがやってくると、私はふとあの日のことを思い出すのです--------。

 

 

小学生のとき、自分で言うのも何ですが(苦笑)、私はノビノビと育ったいい子でした。世の中を恐れることもなく、先生の質問に対しても「はーい!はい!はい!はーい!ここにいるよー!」なんて自分から手を挙げられる、活発なお子でした。はなまるです。

 

それが、です。中学校の入学式。はじめて入った自分のクラスと、はじめて会ったクラスメイト。この先の1年を占う、大切な日。自己紹介。私の番。少し開いた窓からは、あなたの香りがふぅわりと漂っていました。あなたは、そう。いつも人を、少しおかしくするのです。

 

私「ぼ、僕のお名前は…」

 

これです。この「お」。これこそが、ザ・タァニングポイント。知っていますか?中学生という多感な時期に、あだ名が「貴族」になると、人生が狂ってしまうことを。余計な「お」をつけたが為に、私のあだ名は「貴族」になってしまったのです。

 

私「俺金ないから、蕎麦でいいや」
友達「あーじゃあ俺も貴族と同じでいいや」

 

当時の私の友人であった彼らは、本当に違和感を抱かなかったのでしょうか。貴族が食堂でお蕎麦を食べているのに。しかも素で。

 

先生「斉藤お前さ、部活、茶道とフェンシング、どっちにすんの?」

 

驚いたことに、先生もノリノリでした。私だけ2択なのもおかしいし、そもそも、この学校にフェンシング部なんてありません。

 

中学生と言えば、青春真っ盛り。そんな時期に、誰が「貴族」と呼ばれるクラスメイトに、好意を寄せるでしょうか。その通り、貴族(私です)は中学校で、おそろしいほどモテませんでした。それだけならまだしも、「あいつのMDウォークマン、グッチ裕三のサイン入りらしいよ」と、根拠のない噂を立てられたこともありました。入ってません。会ったことすらありません。

 

一度植え付けられた失敗は、その後じっくりと根を伸ばしていきました。「また、やらかすんじゃないか…」。それ以降は、人前で何かをするのが怖くって怖くって。

 

苦手な言葉は「人前」、嫌いな言葉は「いざ」。私の中で、何かが変化を始めました。

 

あの日以来、大事なとこでハズすのです。この先多分、誓いの言葉は噛むし、婚約指輪は中指にはめる。頼まれた写真はブレるし、偉い人のスゥツにはコッフィをぶっかける。決しておっちょこちょいという訳ではないのですが、「絶対ミスをしてはいけない場面」で、ミスをしてしまうのです。とくに、あなたの雰囲気を感じる頃には…。

 

さて「貴族」の刻から、やがて1年が経ちました。またあなたがやって来て、私は中学2年生になりました。

 

そう、ちょうどその頃です。私が攻めの方向を変えたのは。この中学校で、私がモテる日は2度と来ない。そうだ、あの街に帰ろう。あの街なら、きっと今でも私を暖かく迎え入れてくれるはずだ。そう思ったのです。

 

何のことはありません。通っていた中学校で哀しいほどモテなかったため、ただ同じ小学校だった女子に目を向けたのです。そうですね、女子繰り上がり1位とでも言いましょうか。

 

私が育ったのは、とある下町でした。口は悪くても人情にあつい、そんな、ステレオタイプの下町です。そしてあの街は、やはり私を歓迎してくれました。

 

ここなら、私を貴族と呼ぶ人はいません。みんなは私のことを「全部」と当時のあだ名で呼び、優しく接してくれました。(ちなみに「全部」というのは、私が遠足のバスの中で「尿意・便意・吐き気」の全部を催し、大泣きしたためについたあだ名です)

 

ただ、ひとつ驚いたことがありました。

 

あなたは、女子を大人の女性へと変貌させるのですね。久しぶりに会った幼なじみは、どことなく垢抜け、私には何だか眩しく見えました。「だって、ラインがもう…(ゴクリ)」、私はすっかり変わった彼女を見て、品もなく、そんなことを思いました。

 

「今度久しぶりにうちにご飯食べにくる?」

 

恋人気分。そう、ちょっとした恋人気分だったのかもしれませんね。大人になった今でも(いや、大人になったから今だからこそ?)思うのですが、やはり、女の子の実家に行くというのは、普通のことではありません。私は彼女に気に入られている。そう思うと、嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。そうですね、合計で8時間は小躍りしたことでしょうか。

 

しかしあなたは、男子をも大人の男へと変貌させるのですね。小学生時代しょっちゅう遊びに行っていたはずの彼女の家が、なぜだか非常に遠く感じました。何と言うか、妙に気恥ずかしかったのです。「ご両親にちゃんと挨拶しなきゃ…」、いたずらにそんなことを思ったのも、あなたのしわざだったのかも知れません。

 

そして、あの日刻まれた失敗は、確実に私の精神を蝕んでいました。

 

恥ずかしながら約束の日、私は、彼女の家の前で足がすくんでしまったのです。「こえぇ…超こえぇ…」。そうです、紛れもなく「緊張」していたのです。「ぼ、僕のお名前は…」。ちょうど1年前の今頃、あなたに絆されたあの日のことが、鮮明に脳内に蘇りました。

 

彼女のお母さんは、たくさん食べる人が好きでした。それは私が小学生のときに彼女の家に遊びに行き、直接耳にした言葉です。実際に私がおかわりをすると、お母さんはとても嬉しそうな顔をしたのを覚えています。

 

だから私はその日、朝食と昼食を抜いて臨みました。それなのに、不思議とお腹がすかないのです。彼女の家に行く。彼女に会う。彼女のご両親に会う。彼女のお母さんの料理を食べる。そのどれもが、ひどく困難なことに感じたのです。何度も言いますが、「緊張」していたのでしょう。そして、それは、「ル・ヴ(LOVE)」、だったのでしょう。

 

「あらー久しぶりー」

 

彼女のお母さんは、当時と何も変わりなく、僕を迎え入れてくれました。「背ぇ伸びたわねー」とは言われましたが、その言葉は、あくまでも私を子どもとして扱っているからこそ、発せられるものでした。

 

しかしそれは、ある意味で好都合でもありました。娘の幼なじみの男の子。よく知った顔の男の子。だからこそ私はここまで警戒なく歓迎され、彼女の部屋で2人きりで時間を過ごすことも許されたのでしょう。

 

コミック『幽☆遊☆白書』に出てくる蔵馬が大好きで、テストの名前欄に「南野◯◯」と書き、先生にこっぴどく怒られていた彼女(蔵馬は人間「南野秀一」として生活しています)。しかし、そんな彼女の部屋に当時の面影はなく、私にはよくわからない男性アイドルのポスタァが貼られていました。

 

少なからず動揺したのは間違いありません。女子の方が精神年齢が高いとはよく言いますが、その差はあまりにも強烈で。そして私は、そこでふとあることに気がつきました。「何この部屋、なんかめっちゃいい匂いする…」。それは、台所から漂うカレェのいい匂いではありません。今まで感じた、どの匂いとも違います。

 

今となればわかるのですが、それは完全なる「女子の匂い」でした。シャンプゥの匂いなのかもしれません、洗剤の匂いなのかもしれません。刺激的で、甘美で、でも優しい匂い。

 

このとき私の頭の中で、西田ひかるの『人生変えちゃう夏かもね』が、大音量で流れ始めました(あなたの前で、こんなことを言うのは失礼かもしれませんが…)。

 

(ききききき、ききききききき、ききききき)

(き、き、き、きすってどんな味がするんだろう…?)

 

あなたはやはり、少し人をおかしくします。彼女の一挙手一投足が、全て私を許しているかのように見えました。ベッドの上に座る彼女に、私は目でこう訴えかけてみました。「私のファースト・キスを、プレゼント・4U」。そう。ただ、じっと。

 

それに気がついた彼女は、急に伏し目がちになりました。長い睫毛の影が薄く顔にかかり、病的なほどに可愛らしかったのを覚えています。そして彼女は、でも、つとめて楽しそうにこう言ったのです。

 

彼女「あ、そういえばこの前さー、田舎のおじいちゃんが、スクーターでガードレールにぶつかっちゃってさー(笑)」

 

おいジジィ何事故ってんだー。ちゃんと長生きしろー。私の歪な願望は「おじいちゃんの事故(物損)」という、流すに流せない会話に阻まれてしまったのです。中学2年生にここから立て直せというのは、いくらなんでも困難が過ぎるでしょう。

 

彼女のお母さん「ごはんできたわよー」

 

これでとどめ。ジ・エンドです。立て直すどころか、もはやこの部屋に2人でいることすら叶わないのです。もちろん、私は落胆しました。おかえりなさい、マイ・ファースト・キス。やぁ、ただいま貴族。私は小心者です。私はこの先も、ずっとこうして生きていくのでしょう。失ってしまった機会は、どこにも当てはまらない形で固まり、私の心の中でずっと燻っていくのです。

 

ところであなたは、奇跡を信じますか?私は信じています。あの日、あの瞬間から。

 

彼女「あのさ…ご飯食べたら、また戻ってこよ?」

 

…わかるでしょうか。この時の私の気持ちが、あなたにわかるでしょうか。サヨナラ逆転ホウムラン。ロスタイム逆転ゴオル。本当に、天にも昇る気分でした。「おかわり!」。まだ一口もご飯を食べていないのに、私はそう叫び出しそうになりました。

 

食卓は、賑やかなものでした。彼女のお父さん、お姉さん。彼女と僕。お母さんは、台所に立っています。誰もが見知った顔であったので、いざ会ってしまえば、話題は尽きませんでした。

 

しかし、私の頭はどうにかなってしまいそうでした。まだ未熟な精神に降り掛かった、緊張のダブル。彼女のご両親の前での緊張と、食事後の彼女と過ごすひと時を思っての緊張。足に熱が走り、震えが止まらなくなりました。どうしよう…その、本当にいいのかな…ききききき、きのやつ…。

 

彼女のお母さん「斉藤くんは、どれぐらい食べられるー?」

私「……」

彼女のお母さん「おーい、斉藤くーん?」

私「…いや、でもなぁ…」

彼女のお母さん「斉藤くんってば!」

私「は、はい!」

 

私はハッとしました。いけません。これではいけません。私は気を引き締め直しました。彼女のご両親に気に入られる。それもまた、今日という日の目的だったわけですから。ここで、失礼なことがあってはいけません。私は、彼女のお母さんがたくさん食べる人が好きなことを、改めて思い出しました。ここは無難に。冷静に。

 

彼女のお母さん「斉藤くんは、ごはんどれぐらいよそう?」

 

窓の外には、生暖かいあなたの空気が漂っていました。あなたはいつも、少し人をおかしくします。

 

私「え、えっと…もっこり!」

 

 

私は、畜生です。豚野郎です。

 

 

おそらくは、「こんもり」とでも言いたかったのでしょう。しかし、それが何でこんなことになってしまったのか。私には、わからないのです。それでもあえて理由をつけるとするならば、「それが中学2年生というものだから」。そして「本当にごめんなさい。春のせいでどうかしてました」とするしかありません。これから待ち構えているであろう大きなイヴェント。それを一旦意識の外に置くには、私はまだ若過ぎました。だ、だってキッスがしてみたかったんですもの!

 

その瞬間、彼女のお母さんは笑顔のまま固まり、お父さんはひどくバツの悪そうな顔をおして、お姉さんは何も言わずに俯きました。彼女は…わかりません。どうしても、彼女の顔だけは見ることができなかったのです。

 

私が不意に投じた一石は、幸せな食卓に大きな傷跡を残しました。それ以降は、誰が何を言っても空回り、誰がどうしようとも戻れない。申し訳ないことに、その日食べたカレェの味を、私は思い出すことができません。どこか砂のような、砂利のような、そんな食感のみが、うっすらと残っています。

 

彼女のお母さん「さぁご飯も済んだし、斉藤くんはそろそろ帰ろうか?」

私「いや、でもこの後…その…」

 

彼女のお母さんはずっと笑顔を崩さず、最後まで私に親切に接してくれました。そんなできた大人が私に残した、ラスト・メッセェジ。小さい声で直接は聞き取れなかったのですが、私には何と言ったのかが、はっきりとわかりました。

 

「…死ぬか?小僧…」

 

 

今年も、じきに桜の花が咲くのでしょうか。

出会いの季節。別れの季節。

そして、人をちょっこしおかしくする季節。

あなたがやってくると、私はふとあの日のことを思い出すのです。

 
 

先日、うちのお母さんが、「ふんふふ〜ん♪」と鼻歌を歌いながら、お風呂場から出て来ました。おやおや?その瞬間、私はうっすらとあなたの気配を感じました。あなたは人を陽気にしますからね。

 

お母さん「カワイイは、つくれる☆」

 

そう言いながら、足拭きマットでガシガシ頭を拭いているお母さんを見て、私は確信しました。「また、今年もお会いしましたね」。やはり今年も、あなたは人をおかしくするのですね。

 

まとまりのないことを、長々と書き連ねてしまって申し訳ありません。私もあなたの気配を感じ、少し、浮かれているのかもしれませんね(笑)

 

まぁ何はともあれ、今年もひとつよろしくお願いいたします。

 

敬具

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コメント

第三の☆はいりませんよ。

投稿: 飛影 | 2012年3月12日 (月) 00時07分

昼休みの休憩室で笑ってしまいました(笑)
 
確かに春は浮かれてしまう季節かもしれませんね。
 
そんな私は今日が誕生日なのに仕事の事で思いきり追い詰められてますが(>_<)
 
まぁ何とか頑張ります!

投稿: 千秋 | 2012年3月12日 (月) 12時37分

書類製作中、手直し指示待ちにふとチェックにきたら
更新ありでした!やったー!

そしてまた、いつもながらに内容が
さすがです!

今回も爆笑!!w

投稿: revo | 2012年3月12日 (月) 22時58分

相変わらず笑いを堪えるのに必死でした♪

お母さんもいつもどおり面白すぎます(*≧∀≦*)

投稿: ハチ | 2012年3月15日 (木) 07時23分

おもしろすぎます!!

その発想の表現方法が絶妙です
o(^-^)o

投稿: かな | 2012年3月16日 (金) 12時22分

心が痛かったな~。
その時の空気、、、苦しいな~。

あの頃ってね、自分でない自分なのか、これが本来の自分なのか訳がわからなくなる年頃。

文に起こすのに、アナスイさんは、なかなかの傷みを思い出されたのでは?ご立派☆

ちなみに小学生のころ、理科のテストで「受粉」が正解のところ、「せっぷん」と書いて大きな×をもらいました。

投稿: しおから | 2012年3月17日 (土) 09時37分

初めまして。
おもしろいな~、くそ~。

確かに春は、アホな事件がよくおこりますね。
ワクワクします。

投稿: サンダンス | 2012年3月31日 (土) 14時27分

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