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2012年12月10日 (月)

コンビニ・ララバイ

今を遡ること、幾星霜。高校を出て、初めて一人暮らしをしたのが、中央線は立川という街。

 

そうそう!あの洗濯機置き場が部屋の中央にあるアパート!あんな攻めた間取り、中々ないよね。

 

そんな我が家から徒歩10秒という抜群の場所に、とあるコンビニがありました。老夫婦が経営する(多分)、どこの街でも見かけるコンビ二です。

 

いや、今更ながら言っちゃうと、コンビニってマジで便利。自由でありながら、何かと不自由な一人暮らし当初。そういうときにコンビニが一軒近所にあると、本当に心強いものです。

 

買い物だけじゃない。家族の元を離れて、ちょっとだけ寂しいときだって、そう。

 

家の電気が止められて、何もできない雨の日もね。郵便受けに、シーチキンの缶が入ってた夜もね。どんなに部屋にいたくないときも、暖かく迎えてくれる。煌煌と照らしてくれる。

 

そのコンビニに、新しい女の子のバイトが入ったのは、一人暮らしを初めて、3ヶ月頃のことだったと思います。いつものように自動ドアが開くと、そこには見かけない姿が。あれ?新人さんかな?

 

何だかんだ、7度見ぐらいしたよね。雑誌売り場過ぎて(1度見)、飲み物選んだあとに(2度見)、パンとかも拝みつつ(3度見)、いよいよレジで (4度見)、なぜか身に覚えのない麸菓子がカゴの中に入ってて(5度見)、去り際(6、7度見)。みたいな。

 

あのね、すげー可愛いの。女子校生なの。上はコンビニの制服で、下は学校の制服(スカート)なの。

いやいや、何だそれ。ちょっとカワイ過ぎるだろと。いや、顔も別嬪さんなんですけど、その格好に破壊力がありすぎて。100万円。

 

まぁまぁ、でも言ってもですよ。それぐらいでね、無駄金落とすかっていったら、落とさないんですけど。拝むよ?そりゃ拝むけども、ちょっとまだ売上には貢献できないレベル。

 

女子校生「こちら7円のお返しになります」(ソッと手を添えて

 

ただまぁ、それがあるなら話は別だよね。

 

ここ大事だから2回言うけど、おつりを渡すときに、僕の手の下に、自分の手を添えてくれるんです。自分の手を添えてくれるの。自分の手を添えてくれるんだ。伝わるかな。手と手が、触れ合うんですよ。スッて手出したら、ソッて包み込んでくれる。これがねー、良くて。

 

今でこそ、年もとりました。「ちょっとそれちょうだい?」って言われて、まぁ関節キスのような感じになったとしても、地蔵の如く不動。女の子にも慣れました。

 

でもその頃って言ったら、「俺、寿司ネタなのかな」ってぐらい、温もりとは縁遠く生きてきたわけですよ。そこに、スッでソッでしょ。もうね、キュン。イチコロニコロもチョロいもん。セミで言ったら8日目。シャケで言ったら帰郷。

 

いや本当にね、気持ち悪いって思われても仕方がないかとは思うんですけど。ピッタリ小銭持ってても、わざとお釣りが出るように千円札で払ったりだとか。それでいて、カッコいいとこ見せたくて、お釣り全部、レジ横の募金箱に入れたりだとか。アフリカに井戸掘りすぎて、家の水道代払えなくなったことも、正直ある。

 

それを潤い、というのか。ハリ、とでもいうのか。いたら嬉しいし、いないとつまんない。夏の暑い日、あの子に会うために、また僕は今日もアイスを買いに行くのです。

 

ただ、これまで手軽だった場所が、まぁ一気に格式高くなった感はあって。スエットじゃ行けない。底が抜けたサンダルも無理。たかだか乾電池買うのにもね、めいっぱいのオシャレをして。

 

一張羅のシャツに着替え、買ったばかりのズボンに履きかえ、お気に入りの帽子を被って。

そして、右手にはギターケース。

 

あれ、何だろ、最後のやつ。その音楽やってますアピール。コンビニでね、ギター弾かない。棚と棚の間の狭いとことか、はっきり言ってすごい邪魔。っていうか重い。

 

これはもう、ホントお恥ずかしい話なんですけど。当時は、ギター持って歩いてる自分が、スーパーサイヤかっこいいって思ってて。これほどイカしたアイテムもないと思ってて。いやいや、そういう時期ってあるじゃないですか。とくに男は。多分免許持ってたら、そのコンビ二(徒歩10秒)までバイクで行ってただろうし。そうよ、錯乱状態よ。

 

そんなある日の事。いつものようにそのコンビニで買い物をして、その日はその足で駅に。ちょっとした用事があったんですね。それでホームで電車を待っている間、その子にもらったお釣りを眺めてたんですけど。そうよ、それも末期よ。

 

んっと、何か多い。絶対多い。ズッシリしてる。

 

で、レシートを見てみたら、案の定、100円お釣りを多くもらい過ぎていたわけです。

 

この100円を私だと思って今後あなたの前に訪れるスクラッチとかゴシゴシ削って欲しいというメッセージ→2%
ただの間違い→98%

まぁ間違いでしょう。

 

いや、現場で気づけばよかったんだけど、そんな余裕ないじゃないですか。こっちはさ、「あ、袋いらないです」って言うだけでも、緊張して、「ハウルの動く城」に出てくる火のオバケみたいなやつそっくりな声になってるわけでさ。お釣りの多い少ないなんて確認できるわけない。

 

さて、ね。

 

これ、どうするか。返しに行くかどうか。いやいやいやいや、ね。もう駅まで来ちゃってるし、このあと予定もあるし。なんでわざわざ…「3番線に東京行きが参りまーす」。もう電車も来ちゃったしなぁ。ちょっとお釣りを多く貰っちゃったぐらい、何でもないよな…。

 

プルルルルルルル「3番線、ドア閉まりまーす」

 

走り出す電車。そして、ホームに残った僕。だってそのとき、確かに彼女の姿が浮かんだんです。「すいません、店長…許してください…」。俺がこの100円を持ってる限り、レジが合うことはないわけで。それは即ち、彼女の落ち度となるわけで。

 

お前は、何度あの笑顔に救われた?今度は、お前が救ってやる番じゃないのか?なぁ、なぁ、なぁ。…ふふ、そうだ、その目だ!さぁ、走れ!幸せの青い雲!青雲!

 

BGM:X JAPAN『紅』

 

女子校生「い、いらっしゃいませ…」

 

ハァハァと息を切らし、店に駆け込んできた僕を見て、彼女は驚いた顔をしていました。

 

僕「あ、あの…!」
女子校生「は、はい?」
僕「さっき、お釣りを多く貰い過ぎたみたいなんですけど…」
女子校生「え?あ、 わざわざすいません!」
僕「何か100円多く貰ってて、返そうと思って」
女子校生「ありがとうございます!」
僕「いえ…当然のことをしたまでです」

 

友達とか少ないけど、俺ってやっぱり、いいとこある。

 

女子校生「あれ、でも120円ありますよ?」

 

でも、ゲスだなって。

 

この期に及んでまで、手を添えて欲しい。でもって俺、恩を売ってちょっと有利な立場になった気でいる。で、でもホラ!結果としてちゃんとお金は返したし!イエーイ、神様見てるー?☆

 

でもねでもね、その一件以来、その子との距離が縮まったのも事実だったんです。それまでは業務的な会話ばかりがったのが一点、ちょっとした世間話をするようになったのです。

 

女子校生「今日も暑いですね」

 

もちろんね、まだこれぐらい。でも、嬉しかったなぁ。「えぇ。しかし、今日は月が綺麗ですよ」。言わない言えないとんでもない。実際は、口の端に泡つけて「ヴンっ」って頷くのが精一杯だった。それでも、幸せだったから。

 

すべてはおよそ10年とかも前の話で。今、彼女は26とかって歳になっているのでしょう。

 

 

------最終話「大家襲来」

その日も、UKIUKIな気分でコンビニに向かった僕。しかし

 

大家さん「あらー?斉藤さんじゃないのー!何やってるの!?これからお買い物!?」

 

う、わ…。その日、コンビニの前で偶然会ったのは、うちのアパートの大家さんでした。まぁまぁこれだけ近ければね、そういうこともあるっちゃある。 それはわかるんだけど。

 

大家さん「私もなのよ!何買うの?野菜?じゃあ一緒に行きましょ!」

 

でも、ここでは、マジでここでだけは会いたくなかったなと。

 

いや、ホント悪い人ではないし、いくつになっても元気いっぱいなのは素晴らしいことだと思う。ただ尋常じゃなく声がでかいのと、何て言うか、あまり遠慮のない人で。

 

女子校生「いらっしゃいませー」

 

正直ちょっと、一緒にいるところを見られたくないと言うか。

 

大家さん「そうそう、斉藤さん!あなたこの前廊下にオレンジ色のゲロ吐いたでしょ!」

 

一言で言うと、黙ってろと。口に高麗人参つめんぞと。いや、ホラ見てっから。あの子、俄然こっち見てっから。っていうかそれ俺じゃねーから!

 

大家さん「あ、そういえばさ、この前2階の廊下の網戸直してもらったじゃない?今度は違うとこが調子悪くてさ。今夜あたり、直してもらえないかしら?(ヒッソリ)」

 

そんでもって、なんでおいしいとこだけ小声なんだよ。それはむしろ聞かれたいやつなんですけど。

 

僕「あ、はい。別にいいですけど」
大家さん「ホント?助かるわー。いつもありがとねー!」
僕「いえいえ…」

 

っていうかなんで後ろついてくるの?ドラクエなの?

 

大家さん「あらちょっと斉藤さん!指から血が出てるわよ!」

 

全然気がつかなかったんですけどね、そのとき確かに、僕の人差し指からはうっすらと血が出ていました。でもあれ、舐めとけば治るよねってレベル。だから、騒がないで。お願い。

 

僕「え?あー、まぁどっかで切ったんですかね。まぁ、傷も浅そうだし、すぐ止まるんじゃないですかね」

大家さん「大変大変!バンドエイド買わなきゃ!」

 

いや、だから大丈夫だって。もう血も止まりかけてるし。全然へっちゃらだって。大家さーん?「えーっと、バンドエイドはどこかしらねー?」。…うん、まるで聞く気なし、と。

 

大家さん「あ、あったわ!はいこれ!これで安心ね!」

僕「あ、ありがとうございます…」

 

いや、どう見ても箱、カラフルなんだけど。どう見ても避妊具なんだけど。バンドエイド、その横にあるやつだから。

 

大家さん「あとは何買うの?」
僕「え?あ、こんなもんですかね」
大家さん「あらそう。じゃあ、はい(手を差し出して)」
僕「え?何ですか?」
大家さん「一緒に払ってあげる」
僕「いやいや、そういうわけには…」
大家さん「いいからいいから。網戸のお礼もあるし」

 

ホントにね、だから悪い人じゃないんですよ。いつもいつも、何かと気にしてくれて。まるで母親のように接してくれて。すごく優し

 

大家さん「あらやだ!斉藤さんったらこんなの買って!」

 

いや、それさっきあんたが渡したオカモトだから!記憶がもう!

 

大家さん「若いっていいわねー。ふふ。じゃあお会計してくるわ!」

 

こ、このババァを隠したい。奥の奥に。一緒に払ってくれたのはありがたいけど、それ以上に失ったものが多過ぎるわ。

 

大家さん「はい、これ。斉藤さんの分ね」
僕「あ、ありがとうございます」

 

あぁ、これでやっと解放される。と、思ったら出口付近でクルッとターン。

 

大家さん「じゃあ、(網戸の修理)また今夜ねー☆

 

だから最後まで声がでかいんだって!皆見てるからもうやめてー!

 

…あーでもやっと行ったわ。長かったけど、これであの子とまた触れ合えるチャンス。「あれ、うちのアパートの大家さんなんですよ(笑)」、僕は最初に発するべく言葉を、頭の中で繰り返します。大丈夫、この話はきっとウケる。よし、仕切り直しだぜ!

 

女子校生「…」

 

あれ、なんかすごい顔してない?

 

僕「…ど、どうも」
女子校生「…(ペコリ)」

 

え、引いてない?それもドンじゃない?

 

な、なんで…?確かに、大家さんの声は大きかった。多少の迷惑はかけたかもしれません。でも、だからといって、そこまで嫌悪感を丸出しにするようなことは…。えー俺、ほかに何かいけないことしたかな。別に思い返しても、これといって何もなかったような…。

 

えっと、まず大家と一緒に来店してー。それで、大家が避妊具を購入してー。最後に大家が「じゃあまた今夜ね」て言ってー…。

 

…う、うん。やっぱり何もない。え?声?別に震えてないよ?うん、何もない何もない…。

ぅぉぉおおおおやああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!!!!

 

ご-かい【誤解】
[名]   (スル)ある事実について、 まちがった理解や解釈をすること。相手の言葉などの意味を取り違えること。思い違い。「―を招く」「―を解く」「人から―されるような行動」(デジタル大 辞典より引用)

 

いやいやいやいや!嘘でしょ?そんなことって、ねぇ?そ、そうだ!まず誤解とかなきゃ!ヤバい!落ち着け!

 

僕「ピザマンください」
女子校生「ありません」

 

えぇ。それ以来、二度とそのコンビニには行っていません。

 

すべてはおよそ10年とかも前の話で。今、彼女は26とかって歳になっているのでしょう。もし、もしあの日の出来事さえなければ、今頃はちょっと歳の離れたお友達として、お酒を酌み交わしたりも…そう、そんな在りもしない空想を思い描くばかり。

 

それからというもの、僕は、家から少し離れたコンビニに通うようになりました。

 

僕「あ、袋いりません」
中南米男性「フクロ?イラナイ?」

 

なぜか袋を剥かれたアイスを片手に、僕はまた彼女を思い出すのです。コンビニ・ララバイ。

 

【今年中に、あと3回更新したい】 

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コメント

今回も笑わせていただきました(^○^)
年内の更新(三回)期待してます!


…しかし、関節にキスってなんかすごくドキドキしちゃいますけど(笑)

投稿: | 2012年12月11日 (火) 13時10分

9月から12月が長いな。いや永いね。年末までにあとちょうど3回ほっこり笑いたかったから、そんな事言われたらすごい期待しちゃうな。いやしちゃうね。いや、寒いけどお仕事頑張ってね。

投稿: と | 2012年12月14日 (金) 04時37分

おつりの手のくだりめっちゃわかります。あれアツいよなー

投稿: ハマの | 2012年12月14日 (金) 14時20分

いや何より袋剥かれたアイスの破壊力!!

投稿: ふぇろもん | 2012年12月14日 (金) 21時17分

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