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2012年12月30日 (日)

リンゴジュースリンゴジュースご臨終っす

瓶に入ったリンゴジュースというのは、なぜこうにも艶かしいのでしょう。美しいのでしょう。
眺めてうっとり、唾ごくり。夜は抱いて眠ろうかしら、なんつって。あぁ、さぞ!さぞおいし

 

お母さん「ごめん、栓抜きなかった」

 

飲めない。開かない。in家内。

 

僕「いやいや、栓抜きない家ってどうなのよ」
お母さん「5年前のプリンならあったけど、食べる?」
僕「違う意味でプッチンしちゃうぞ」

 

これがねー、飲めないとわかると、さらにさらに美味しそうに見えるから困ったもので。もうね、俄然飲みたいわけです。これを口にできるなら、友達に借りたドラクエ(スーファミ)返してもいい。間違ってセーブ消しちゃったこと、謝ってもいい。

 

僕「なんか代わりになりそうなもの、ない?」

 

代わりになりそうなもの…?

 

こうして、斉藤家による年末舞台「ハチャ☆メチャ!栓抜き珍道中〜開かぬなら何とかしようリンゴジュス〜」は幕を開けたのです。

 

〜3分前までのあらすじ〜

お歳暮で高そうな瓶入りリンゴジュースが届く。しかし栓抜きが不在のため、開けられない。だから飲めない。でも飲みたい。(了)

 

お母さん「うーん、代わりになりそうなものねー」
僕「あ、これは?」
お母さん「おお!」
僕&お母さん「キッチンバサミ!」
僕 「これはイケるんじゃない?」
お母さん「イケそうなKE☆HA☆I〜!」
僕「う、うん…(なんでこの人テンション上がってんだろ…)」

 

お母さん「おし貸せ!坊主!」

 

さぁ、先陣を切るのは、何かと便利なキッチンバサミ。あーこれイケるわ。不可能ねーわ。そうそう、刃をね、瓶の細いとこにあててね。

 

お母さん「ダメ、切れない!」

 

オリハルコンかと。切れるわけねーだろ。違うよ、刃を王冠の下に入れて、テコの原理でグイっと行くんだよ。グイっと。グイッと。うん、行きゃしない。

 

僕「あーダメだねー」

 

何度試そうとも、ガッガッという音がむなしく響くばかり。せっかくの美しい瓶にも、小さな傷がまた一つとついていきます。これはいけません。

 

ハサミで開けることを諦め、再び栓抜き代わりを探す僕ら。ああでもない、こうでもないと家中を物色していると…。

 

お母さん「ちょっと手出して」
僕「え?はい」

 

うわ、冷たっ!しかも何かすげぇヌルヌルするんだけど!

 

僕「いや、何これ!?」
お母さん「あぶら
僕「あ、油?」
お母さん「すべりがよくなるかと思って」

 

それは、あれじゃない?指輪がとれないときとかのやつじゃない?

 

僕「いや、むしろ瓶持つのすら、ままならないんだけど」
お母さん「んー、これ違うかな?」
僕「絶対違うよね。なんでぶっかける前に、一言相談してくれなかったの?」 

 

お母さん「そうだ!ちょっとそのまま抑えてて!」

 

そう言って、何かを探しに戻るお母さん。どうしよう、手ぇすごいヌルヌルしてる。一刻も早く洗いたいんだけど。

 

「あったあった!」。さて、そう言って嬉しそうに戻ってきたお母さんの手には、しっかりとライターが握られていました。

 

お母さん「これで焼き切るわ!しっかり抑えといてね!スリー!ツー!ワ

僕「待て待て待て待て!」

 

多分焼死しちゃうなぁ、それ。俺今、油まみれなんだよなぁ。

 

お母さんに火遊びの危険性を説いた後、舞台は新たな局面へ。しっかりと手を洗った僕らの瞳が次に捉えたのは、繊細な彫刻がほどこされた銀のフォルムでした。 

 

お母さん「こ、これは…!」
僕「そうか!その手があったか!」
僕&お母さん「カニほじるやつ!」

 

鳴り物入りで我が家にやってきたものの、いまだ登板機会のなかったカニほじるやつ。今こそ、その真価を発揮するときです。

 

どうしてだか二手に分かれてる先端を王冠の下に潜り込ませて〜、下からぁぁぁぁあああ、押す!

 

僕「ふんっ」
「プスー」
僕「い、今!音した!プスーって!何か開きそう!」

 

もう一度さっきの要領で下からぁぁぁぁああああああああ、突き上げる!

 

僕「ふんっ」
「プスー」
僕「やっぱり!これイケそうじゃない!?」

 

お母さん「プスー!プスススス!」

 

あ、音源こいつだったわ。壊れかけのラジオだったわ。

 

僕「な、何で笑ってんのさ!」
お母さん「ふんはお前だよ!」
僕「それどういう意味!?」
お母さん「そんなヘッピリ腰じゃ全然ダメ!貸して!」

 

二人の子どもを産んで、早幾年。雨の日も、風の日も、育児に従事してきたこの身体。今こそ見せよう、主婦の力を…。いや、何でもいいから早くやれ と。

 

お母さん「カァァァァァ……!」
僕「な、何と言う熱気!」
お母さん「フゥゥゥゥゥゥ……!!!」
僕「いや、目とか飛んでるけど、本当に大丈夫!?」
お母さん「な、なーに、こんなの楽勝楽勝…(プルプル)!」

 

いや、画的には相当キツいけど、これは本当にイケるかもしれません。さすが、さすがのお母さんだぜ!

 

お母さん「あ……ゴフッ!」

 

ゴフって?え?何か口から丸いの出たけど?

 

お母さん「ご、ごめん。それ、さっき食べたうずらの卵

 

お前はピッコロ大魔王かと。

 

僕「おいババァ、何うっかり出産してんだよ…」
お母さん「…タモリ…(意味不明)」

 

産卵直後の老婆にこれ以上の無理をさせるわけにもいかず、結局「カニほじるやつ」作戦は中止に。再びスタートラインまで戻ってしまいました。

 

アレもダメ、これもダメとなると、残るは………。

 

………えー、マジか……。

 

あるっちゃ、あるんだよなぁ。人の体内には、僕の口内には。確かに栓抜きの代わりになりそうなものが。ねぇ、歯、聞こえる?何か出番っぽいけど、調子どう?

 

でもすでに、僕、前歯一本折れてるんだよなぁ。そう、差し歯なんです。リーチなんです。あまりにもね、リスクが大き過ぎる。さすがにこれ以上歯を失うわけには…

 

リンゴジュース「寒いなぁ…まだかなぁ…」

 

今行くよ。好きだよ。

 

僕は意を決して、リンゴジュースのビンを両手で掴みました。そして、栓に歯をガッチリと引っ掛ける。口の中には、決して楽しくない金属の味が広がります。

 

グ、ギ、グ、ガ、ガァ…!

 

僕の歯が召されるのが先か、それともリンゴジュースが開くのが先か。今、誰にも注目されることのないバトルが、ここ斉藤家では繰り広げられています!

 

攻める斉藤軍、守るリンゴ軍。そして、この流れに飽きたのか、お皿を洗いはじめたババァ軍。さぁ、この年の瀬。最後に笑うのは誰なのでしょうか。

 

斉藤アナスイ、苦しそうな表情だ。それに対するリンゴジュース、どっしりと構えております。あーっと!ここでババァがストローを洗い出した!お皿に引き続き、ストローを洗っております!これはどういうことだー!?

 

僕「いや、おい」
お母さん「え?」
僕「何してんの?」
お母さん 「何って、洗い物だけど」

 

いや、それはいいんだけどさ?何だろ、何かストロー洗ってない?

 

僕「それ、何?ストローじゃない?」
お母さん「うん」
僕「えっと?うちって、ストロー洗って使ってんの?」
お母さん 「うん、エコでしょ?」

 

す、捨てろよ…。あーっと!ここで斉藤アナスイが膝をついた!戦意喪失!戦意喪失であります!(カンカンカン!(ゴング))

 

も、もうダメだ…。下手したら、爪楊枝すら洗って再利用してる可能性もある…。あぁ…。僕が絶望にうちひしがれかけた、その時でした。

 

「ヴヴヴヴヴ…!ヴヴヴヴヴ…!」

 

震える携帯電話を手にとると、ディスプレイは兄からの着信を伝えています。兄…?兄…!聞き慣れたはずのバイブ音が、その時ばかりは希望の鐘のように聞こえました。

 

兄「あーもしもし?今から帰るわー」
僕「あ、あのさ!今、栓抜きがなくって!瓶入りのリンゴジュースが飲みたいんだけど!」
兄「へ?リンゴジュース?」
僕 「そう、瓶入りのリンゴジュースなんだよ!だから悪いんだけどさ、買ってきてくれない?」
兄「あー、何かよくわかんないけど、わかったー」
僕 「恩に着る!」

 

やっぱりね、持つべきものは兄だなと。小さい頃は、お金貸して、ベルマークで返されたりもした。自転車貸して、ベルマークで返されもした。お誕生日に一生懸命お手紙書いたら、ベルマークで返されたりもしたよ。でも、今は全部許す。全部全部許すよ。お兄ちゃん、やっぱり最高だよ!

 

いやぁ、気持ちに余裕が生まれるというのは、本当にいいものですね。この幸せを、他の人にもわけてあげたくなる。

 

僕「あのさ。お母さん、久しぶりに肩でも揉もうか?」
お母さん「えー?急にどうしたの?なんか気持ち悪いなー(笑)」

 

そういって、ゴキジェットを僕に噴出してくるお母さん。いや、いくらなんでも、気持ち悪がり過ぎだろ。

 

はてさて、兄がご帰宅したのは、それから1時間程も経った頃のことでした。あーあー、そんなに手を赤くしちゃって。さぞ寒かったでしょう。ほらほら、おこたに入って。

 

僕「おかえり!遅かったねー!」
兄「あー。いや、中々売ってなくてねー」
僕「いや、ほんと悪かった!ありがと!」

 

確かに、コンビ二なんかで売ってるものでもないし。兄は寒い中、栓抜きを探し彷徨ってくれたのでしょう。いや、これはホント、頭上がらないわ。みかん剥いてあげるわ。

 

兄「はい、これ。頼まれてたやつ」
僕「あ、ありがとー!」
 

(ドン!)

 

…び、瓶に入ったリンゴジュースというのは、なぜこうにも艶かしいのでしょう。美しいのでしょう。眺めてうっとり、唾ごくり。…あれ?この景色、どこか で…?

 

えっと?なんか、リンゴジュース2本に増えてない?

 

兄「なんでそんな瓶入りのリンゴジュース飲みたかったの?わざわざデパートまで買いに行ったんだけど」

 

そ、そうじゃねぇ…!リンゴジュースもう1本買ってきてどうする!栓抜きはー!?

 

…でもね、何も言えないじゃん。このクソ寒い中ね、重い重いリンゴジュース(瓶)抱えて帰ってきてくれた兄にね、文句なんて言えない。むしろ、ありがとうだよ。今年もありがとうだよ。

 

僕「あ、お金。いくらだった?」
兄「7800円

 

あやうく卒倒しかけたけど、その気持ちが嬉しい。そう考えたら、全然高くなんてない。はい、お金。寒い中本当にありがとう。

 

さて「そいえば栓抜きあったよ!」との報告を受けたのは、それから数日後のことでした。

 

うん、何かそんな気がしてた。だって、リンゴジュース、空になってるもん(2本)。7800円が、一口も飲んでないのに、空になってるもん。

 

僕「う、うん。よかったね」

 

さぁ、来年こそはこの家を出よう。その日、僕はそう誓ったのでした。


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コメント

涙出ましたよ(笑)

いやあ、臨月近いお腹がヒクヒクするくらい笑った~!
今年最後の大爆笑になる可能性が出て参りましたよ(笑)
いつもありがとうwinkgoodnotes

投稿: しおから | 2012年12月30日 (日) 23時01分

いやぁ~素敵家族の斉藤家!
大好きだわ~♪

…でもね。
栓抜、コンビニで売ってると思う。
ワインのコルク抜きも売ってるもの。
悩んでる間にコンビニ行ったらよかったかも。

でもコンビニで買えちゃったら、こんなドラマにならないもんね(^_^;

投稿: kazz | 2012年12月30日 (日) 23時09分

今年一年、よく笑わせてもらいました。ありがとうございました。
来年からも楽しみにしています。それでは、よいお年を(*´ー`*)

投稿: 撲殺天使 | 2012年12月31日 (月) 16時44分

瓶入りリンゴジュース、高けぇ…

投稿: 人畜無害 | 2013年7月27日 (土) 01時41分

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